2012.08.28

【全日本学生選手権・特集】2年生の松澤力也が日体大の伝統階級(男子グレコローマン60kg級)を死守!

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 グレコローマン60kg級は日体大が勝たねばならない! 全日本学生選手権で、ロンドン五輪で松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)が銅メダルを獲得したグレコローマン60kg級は、日体大2年の松澤力也(右写真)が決勝で佐々木晋(拓大)を2-1で下して初優勝を遂げた。

 松澤は、昨年は2回戦敗退。だが、「この1年間、一番練習している大学で練習を積み、4月のJOC杯、6月の東日本春季新人戦で優勝し、自信が少しついてきたところだった」と、成長途上の勢いそのものに学生王者までのぼりつめた。

■昨年までの10年間で日体大が8度優勝の階級

 同級は過去10年で8度も日体大の選手が優勝している。全日本レベルでも、松本隆太郎の前は世界2位にまで昇り詰めた笹本睦選手の独壇場。いわば、同大学の“お家芸”と言える階級だ。今大会も、第1シードで昨年3位の渥美祥(日体大)を筆頭に実力十分の日体大選手が数多くエントリーしてきた。

 ところが勝負は水物。渥美はけがで棄権し、準決勝にコマを進めた射場大地(日体大)も佐々木晋に敗れてしまう。55kg級は表彰台をすべて日体大で埋めたのとは対照的に、60kg級のベスト4には松澤のみしか残らなかった。

四つ組みからのそり投げも見せた松澤(赤)

 松澤は、「練習では先輩たちに歯が立たないので、インカレの目標は先輩と対戦するまでは負けないことにしていた」と目標設定していたが、先輩たちの思わぬ敗戦で、松澤が日体大の看板を背負うことになる。「自分の先輩が五輪で活躍した階級なので、日体大が勝たないのは恥ずかしいと思った」と気合を入れて決勝戦に臨んだ。

 相手は昨年55kg級3位で、階級を上げてきた拓大の佐々木。「準決勝を見る限り、グラウンド中心の選手だ」と分析した松澤は、スタンドの序盤から動いて佐々木の体力を奪う作戦に出た。第1ピリオドのスタンドは0-0で、松澤の攻撃から始まるグラウンド戦になったが、スタンドでガンガン攻めにいったことは無駄にはならなかった。

 クロスボディロックから持ち上げて、佐々木がスイッチしてきたところに反応して、返し技に変化。2点を奪ってこのピリオドを取り、第2ピリオドへ。松澤の攻めの姿勢は止まらず、第2ピリオドは序盤に松澤が先にテークダウンを奪う。

 しかし佐々木がうまくスイッチしてポイントにつなげ、1-1のラストポイントで惜しくも落としてしまう。これでピリオドスコアは1-1。

■第3ピリオドのリフトを切られて絶体絶命のピンチだったが…

勝利が遠のいたと思われた直後、佐々木(青)のがぶり返しをつぶして押さえた松澤

 第3ピリオドを前に、松澤は「自分も疲れていたけど、相手はもっと疲れているから勝機はあると思った」と自分に言い聞かせた。結局、スタンド戦で決着がつかず、第2ピリオドまでの総得点の多い松澤にグラウンドの選択権。「守って勝つより、攻めて勝ちたかった」と迷わず攻撃を選択する。またもクロスボディから持ち上げるが、佐々木のうまい身のこなしで切られた。万事休すか-。

 松澤は勝利への執念を持ち続けた。「あきらめてはいませんでしたので、押し出そうと思った」と、じりじりと場外にプレッシャーをかけていたところで、佐々木が強引にがぶり返しを打ってきた。松澤は相手のミスを見逃さずに、佐々木の技をつぶして逆に得点をゲット。2-1で松澤が勝ち、日体大の伝統を死守した。

 「先に負けてしまった先輩たちにも『頑張れ』と声をかけられ、このチャンスを逃したら一生ないと思ったので全力で試合をしました」と、日体大の力が松澤の背中を押してたことも勝利へつながった。

 地力では、先輩たちと比べると足りない部分がたくさんある。だが、「練習でアピールして、10月の全日本大学グレコローマン選手権の代表になり、学生二冠王になりたい」と明確な目標を挙げていた。