2012.08.26

【全日本学生選手権・特集】女子51kg級・田中亜里沙(早大)、復活への序章

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 全日本学生選手権の女子51kg級は、田中亜里沙(早大=写真)が決勝で杉本恵(早大)を第1ピリオドでフォールして初優勝を遂げた。「久しぶりの優勝でホッとしています」と、2009年4月のJOC杯女子カデット52kg級で優勝して以来、約3年4ヶ月ぶりの“頂点”に感極まって涙を流した。

 今大会、同級は昨年優勝の平野遥香(日大)や昨年の世界選手権代表の志土地希果(至学館大)のほか、阿部千波(至学館大)ら主要選手が棄権。第1シードの平野のブロックにいた田中は、失点はしたものの無難に決勝まで勝ち進んだ。

 決勝は2年連続決勝に駒を進めた同門の杉本と対戦したが、開始早々にタックルから相手の足を持ち上げてニアフォールで2点を奪うと、そのままわずか36秒でフォール勝ちを収めた。「(平野など)強い選手がいなかったので、しっかり優勝しないといけない大会だった。勝ててホッとしています。久しぶりの優勝なので、正直うれしいです」と目を潤ませた。

 兄は、6月の全日本選抜選手権のフリースタイル66kg級優勝の田中幸太郎(早大)。高校時代から兄妹そろって成績を残し注目を浴びてきたが、この2年半、次世代のホープとして期待され、ロンドン五輪金を獲った米満達弘(自衛隊)の練習パートナーとして現地に帯同までした兄・幸太郎とは対照的に、田中は極度のスランプに陥っていた。

決勝戦。タックルから一気にフォールを決めた

 高校2年の時にジュニアクイーンズカップとJOC杯を制したが、高校3年時は2位や3位ばかりで、タイトルに手が届かず、高校生活を終えた。

 昨年4月にはトップアスリート枠で早大に合格。だが、この枠で入学した他の競技の選手は、ロンドン五輪のメンバー入りを果たしたり、代表もれしても最終予選まで競り合うなどと、すでにシニアで結果を残している選手ばかりだった。

 田中に置き換えると、ロンドン五輪で金メダルを獲った小原日登美(自衛隊)と最終選考まで競り合うくらいの結果を残さねば、同期から遅れを取ったことになる。「結果を残さなくちゃ!」と、早大のルーキーイヤーは焦りばかりが先行し、「枠のことは気にしないようにしていたけど、精神面の弱さが出てしまった。練習では自身の成長を感じていたけど、試合で勝ち切れなかった」と、トップアスリートにふさわしい結果は残せなかった。

■試合内容より、結果重視へ方向転換

 田中は、高校時代から小原日登美のようなきれいで静かなレスリングで勝つことを目標にしていた。このところの不調で、田中は一つの結論を導き出す―。

 「最近思ったんです。『結果がすべてじゃない』と言いますけど、『結果はすべてだな』と。相手に食らいついて、反則ぎりぎりの汚いレスリングで勝つ気持ちも大事なのではと…。きれいなレスリングを目指す前に、やることあるんじゃないかな。今まで上を見すぎでした」。

2009年JOC杯で闘う田中。この時から3年4ヶ月間、優勝から見放されていた

 まずは勝つことに専念し、内容は勝てるようになってから次のステップとして踏むことが順番だと気付いた。その影響は、6月に学生で全日本選抜王者になった兄・幸太郎から受けた。「兄が“全日本”の表彰台の真ん中に立ってうれし涙を流していた。私も同じところで泣いてみたいと思ったんです」。クリンチで決着がついたにもかかわらず、全日本選抜のタイトルに思わず涙した兄を見て、田中も“結果が”心底から欲しくなった。

 当面はベスト体重の51kg級で世界を目指していくが、近年の51kg級は48kg級と55kg級の“2軍”ではなく、若手を中心にレベルは五輪階級並みに上がってきている。5月のワールドカップ(東京)はJOCアカデミーの宮原優(東京・安部学院高)が大健闘し、9月の世界女子選手権(カナダ)は高校生の川井梨紗子(愛知・至学館高)が代表となった。

 田中がこの階級で勝ち抜くには、今回不在だったライバルに加えて、川井らの若い力もねじ伏せなければならない。そうでなければ、世界の道は開けてこない。「次の目標は世界といわずに、1試合1試合勝っていきます。高校生たちには絶対に負けられませんから」。復活の序章といえる優勝を勝ち取った田中の巻き返しが、ここから始まる。