2012.08.13

【ロンドン五輪最終日・特集】佐藤強化委員長から米満達弘に金メダル伝説継承!

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 【ロンドン(英国)、文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫、保高幸子】男子レスリングに24年ぶりに金メダル! 男子フリースタイル66kg級の米満達弘(自衛隊)が、ロンドン五輪最終日に遂にやってくれた。決勝戦で2010年世界選手権優勝のスシル・クマール(インド)を2-0で破って優勝。1988年ソウル五輪フリースタイル48kg級の小林孝至、フリースタイル52kg級の佐藤満(現男子強化委員長)以来24年ぶりの金メダルを獲得した(右写真)

 「夢みたいです。金メダルを取るのが目的だったんですけど、取れるとは思わなかったです」。決勝戦で勝った瞬間、米満の個性的な勝利ダンスもさく裂! スタンドも24年ぶりの歓喜に包まれた。「やった! 米満、金メダル!!」。佐藤強化委員長が顔をくしゃくしゃにして涙を流した。

 まさに取るべくして取ったという貫録のVだ。今回のロンドン五輪は、大会3連覇が男女あわせて3人も出るなど、近年のトップ3や国際大会で豊富に優勝経験がある選手が優勝するなど“鉄板試合”が続いてきた。

 この流れに沿うと、2009年世界3位、2010年アジア大会優勝、2011年世界2位の米満には十分に優勝する機運が高まっていた。「五輪はどんなに実力があっても、その日の調子によってコロコロ変わる。1日で決める大会は、実力+運がないとできないと思った」話し、「(僕は運が悪い方だが)今日は運が良かった。この日のために(運を)ためておいたのかな」。世界選手権で表彰台、そして五輪でチャンピオンと最高の形で世界の頂点に立った。昨年2位から優勝と“世界”の順位を上げた理由は「守りに入っている相手でも、得点できるようになった」とこの1年での成長も見せた。

 万全な体調ではマットにあがれなかった。6月の菅平合宿で右わき腹を負傷。ひねる動作をすると激痛が走るため「グラウンドは、1ヶ月半ほと練習をしていない」と、スタンド戦一本に絞って作戦を立ててきた。技は正面タックルと片足タックルの2パターンのみ。幸い、この技を使ってわき腹が痛むことはなかった。

■世界選手権トップ3が1ブロックに固まる

 米満の最大の敵は、昨年の世界選手権決勝で対戦して負けたメフディ・タガビー(イラン)だと思われていた。だが、タガビーは、初戦で世界選手権3位のリバン・ロペス(キューバ)に敗退。勝者となったロペスが米満の初戦(2回戦)の相手に上がってきたのだ。「タガビーは決勝とかで力を出す選手。きのうの計量会場で、(世界選手権3位のロペスと対戦が決まって)落ち込んでいるような姿を見た」という米満は、キューバが初戦の相手になると確信。就寝前もキューバのビデオを熱心にチェックしておいた。

 米満の予想は的中し、米満の初戦はキューバ。「キューバは(2010年の世界選手権で負けていて=違う選手)フィジカルが強くてやりたくない国。初戦からフルパワーで来る」と警戒していたが、前夜のビデオチェックが効いたのか、2-0で勝ち進んだ。

 ヤマ場だったのは3回戦のカナダのハイスラン・ベラニス戦だ。「フィジカルも強いし、前回対戦した時と構えが違っていた。タックルの切りも早くてタックルに入れなかった」と第1ピリオドはクリンチで落としてしまう。第3ピリオドでは、口に手を入れられるラフプレーもされた。それでも心は折れずに戦い、タックルで相手をねじ伏せた。

■外人対策だった両足の持ち上げタックルで金メダルを決めた

 決勝戦のスシル・クマール(インド)は、2009年の世界選手権3位決定戦で下している相手。クマールはその翌年に世界王者になっており、米満と互角の対決が予想された。だが、高田裕司協会専務理事が「インドの選手は準決勝に勝って、相当喜んでいた。決勝に行けるだけで満足しているんだなと思ったので、米満が勝つと思った」とメンタル面で米満に分があった。

決勝で爆発した3点タックル

 この日、攻撃はタックルと決めた片足、両足タックルが決勝戦でも爆発。特に第2ピリオドで見せた、両足の持ち上げ3点タックルが圧巻の出来。米満は「この技は外国人対策です。持ち上げないとタックル返しに来るから」と外人の得意技を研究して、タックルのバージョンも変化させていった。ビッグポイント3点を奪った米満は、その後、クマールの攻撃をわずか1点に抑えて終了のブザーを聞く。 

 「高校からレスリングを始めても金メダル取れるんだぞと証明できた」と米満。この数年、フリースタイルの大本命として常に「金の卵」の扱いを受けてきた。ロンドン五輪に向けては過度の取材を受けてきたこともある。

 「金メダルのプレッシャーはあったけど、これがあったから金メダルが取れた。五輪2連覇ですか? 目指す可能性はありますね」。日本男子に24年ぶりにゴールドメダリスト誕生。日本お家芸の伝統はソウル五輪金の佐藤満強化委員長から米満に確かに今日、受け継がれた。