2011.09.05

【特集】世界選手権へかける(16)…女子63kg級・伊調馨(ALSOK)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 吉田沙保里(ALSOK)と同じく来年のロンドンで五輪3連覇を狙う女子63kg級の伊調馨(ALSOK=右写真)。昨年は、2008年北京五輪後の休養のあとの初めての世界選手権を難なく制覇。“63㎏級にイチョウあり”を大いにアピールできた。

 北京五輪後、練習拠点を名古屋から東京に移した。拠点を固定せず、男女の全日本合宿を中心に、自衛隊や各大学など多くの環境への出げいこを中心に強化してきた。
 
 今年の伊調は年初めから新しいことに挑戦した。「実戦」をテーマに、1月のヤリギン国際大会(ロシア)、3月の女子ワールドカップ(フランス)、4月の全日本選抜選手権、5月のアジア選手権(ウズベキスタン)と、「今までで一番の試合をこなした」と、濃い半年間を送った。「試合がモチベーションになってします。いける試合はどんどん出たいです」と、試合で新しい自分を見つけることに興味を見出しているようだ。

■「女子にとって、金メダルは義務ですから」

 本来は7月のゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)にも出場し、実戦感覚を持ったままトルコに乗り込む予定だったが、日程の都合でキャンセル。試合づくしだった今年の前半とは一変、6月から1試合もせずに世界選手権に向かうことになった。

 伊調は「3ヶ月くらい空いてしまっているので、試合の感覚が低くなってしまいました」と話すが、不安そうな表情は一切ない。「試合の感覚は女子合宿の最終調整で、押し出しも入れた練習で取り戻します」とプランを挙げた。(左写真=全日本合宿で練習する伊調)
 
 今年の男子ナショナルチームは、7月下旬に菅平でのフィジカルトレーニング、8月からは味の素トレーニングセンターで40日合宿を行っている。伊調は8月上旬の新潟・十日町市での全日本女子合宿のあと、男子の全日本合宿を拠点に練習を積んだ。

 男子のコーチは「全メニュー手を抜かず、朝練習も必ず来る」と、伊調の練習に対する真摯な姿勢を評価する。十日町市での全日本女子合宿の最終日には、午前中の練習が終わって解散したあと、東京へ移動して夕方からの男子の合宿に合流したこともある。前よりも練習の虫になっている。伊調が頑張る理由は一つしかない。「女子にとって、金メダルは義務ですから。金が宿命だから」-。

■新興国のキューバとの対戦、実現するか?

 吉田と並んで女子のWエースである伊調は、自分に課せられた宿命をしっかりと受け止めて世界選手権に臨む。「意識しすぎると自分のレスリングが壊れちゃうけど、金メダルは絶対とらなければならない」。
 
 アジア選手権に出場した理由も「いろいろ自分の技を試したかった」と話したが、「試してみて負けるのはダメ」と、挑戦の上での負けをキッパリ否定した。挑戦し続けて勝ち続ける-。これを今年は実行し続けている。研究されるのが怖く、女王の座を守ることに徹した北京五輪時代の伊調から、格段にレベルが上がった証拠だろう。(右写真=昨年の世界選手権で闘う伊調)
 
 トルコは大学3年生の時の2005年8月、イズミールで行われたユニバーシアード以来の遠征となる。ロンドン五輪の前哨戦となる今大会だが、伊調の表情が初めて曇った。「ライバルの多くは67㎏級に出るんですよね。本当は(対戦して相手の情報を)先に知っておきたいのですが…」と、ライバルの一部と闘えないことを残念そうに話した。

 現時点でのエントリーで、女王・伊調が気になる国はカナダ、カザフスタン、キューバなど。「キューバは去年の世界選手権を見て、決勝まで上がってきてもおかしくないと思った。粗かったけど、パワーがすごかったので、ぜひ対戦してみたい」と伊調。強敵が次々と生まれる女子レスリングが、伊調の意欲をさらに掻き立てている。

 「やるからには金メダル取ります」と世界V7に向けてキッパリ宣言した。


伊調馨(いちょう・かおり=ALSOK)
 1984年6月13日、青森県生まれ、27歳。愛知・中京女大附高~中京女大卒。2002年のアジア大会で銀メダルのあとあ、同年の世界選手権に初出場初優勝。以後、2008年北京五輪まで、2004年アテネ五輪を含めて7年連続世界一。この間、2004・05・08年アジア選手権、2006年アジア大会などでも優勝。休養のあと、2009年に復帰し、2010年世界選手権で2年ぶりの優勝を遂げた。今年はヤリギン国際大会優勝、W杯個人優勝、アジア選手権優勝と勝ち続けている。166cm。
 


◎伊調馨の最近の国際大会成績

 《2011年》
 【5月:アジア選手権(ウズベキスタン)】優勝(11選手出場)
決  勝 ○[2-0(TF8-0,4-0)]Kim Ran mi(北朝鮮)
準決勝 ○[フォール、2P(3-0,F5-0)]Tumentsetseg Sharkhuu(モンゴル)
2回戦  ○[フォール、1P(F5-0)]Choe Jin-suk(韓国)
1回戦   BYE

 【3月:ワールドカップ=団体戦(フランス)】個人優勝
3決戦 ○[2-1(0-2=2:06,4-0,1-0)]Justine Angelle Bouchard(カナダ)
3回戦 ○[2-0(1-0,4-0)]Jing Ruixue(景端雪=中国)
2回戦 ○[フォール、2P1:17(3-4,F4-0)]Audrey Laurence Prieto Bokhashvili(フランス)
1回戦 ○[2-0(1-0,5-0)]Sharkhuu Tumentsetseg(モンゴル)

 【1月:ヤリギン国際大会(ロシア)】優勝(16選手出場)
決  勝 ○[フォール]Inna Trazhukova (ロシア)
準決勝 ○[2-0(1-0,1-0)]Nasanburmaa Ochirbat(モンゴル)
2回戦  ○[2-0(1-0,1-0)](ロシア)
1回戦  ○[2-0(2-0,4-0)]Sharhuu Tumentcetceg(モンゴル)

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 《2010年》
 【9月:世界選手権(ロシア)】優勝(28選手出場)
決  勝 ○[2-0(1L-1,3-0)]Elena Pirozhkova(米国)
準決勝 ○[2-0(1-0,4-0)]Marianna Sastin(ハンガリー)
3回戦  ○[フォール、2P1:53(3-0,F4-3)]Chen Meng(中国)
2回戦  ○[2-0(4-0,3-0)]Hanna Katarina Johansson(スウェーデン)
1回戦    BYE

 【3月:ワールドカップ=団体戦(中国)】個人優勝
3決戦 ○[2-0(2-0,1-0)]Maryana Kvyatkovska (ウクライナ)
3回戦 ○[2-0(1-0,4-1)]Justine Bouchard(カナダ)
2回戦 ○[2-0(1-0,2-0)]Natalya Lavshkina(ロシア)
1回戦 ○[2-0(1-0,1-0)]Cui Haili(崔海麗)

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  《2009年》
 【10月:ディノス招待トーナメント(カナダ)】優勝(7選手出場)
決  勝 ○[2-0(2-0,3-0)]Danielle Leppage(カナダ)
準決勝 ○[フォール、1P(5-0)]Brittany Cochran(カナダ)
1回戦  ○[フォール、1P(F4-0)]Tessa Plana(カナダ)