※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
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表彰式で笑顔を見せる吉田(左から2番目)
【ロンドン(英国)=増渕由気子 撮影=矢吹建夫】女カレリンだ! ロンドン五輪女子55kg級に出場した吉田沙保里(ALSOK)が、決勝で長年のライバル、トーニャ・バービック(カナダ)をストレートで破って優勝。2004年アテネ、2008年北京に続く五輪3連覇を達成。日本の個人種目3連覇は、前日の女子63kg級・伊調馨(ALSOK)に続く快挙だ。
さらに、今回の金メダルで、男子グレコローマン130kg級で不滅の記録を持つアレクサンダー・カレリン(ロシア)の「世界大会12連覇」に肩を並べる大記録でもある。吉田は「3連覇できて幸せ、レスリングやってよかったな」と重圧から解放された表情を浮かべた。
同五輪で吉田は選手団の旗手に任命され、五輪代表選手の顔となった。8月9日が試合にも関わらず、開会式に出席するため出発は7月の下旬。早すぎるロンドン入りを懸念する声も聞こえた。
「不安はありました。(試合前日の夜は)寝られなかった。いつでもどこでも寝られる人だったのに。目をつぶると、その相手の顔が出てきたりしました」。“旗手をすると勝てない”というジンクスも手伝って、吉田の試合結果は注目の的になっていた。
前日に女子48kg級の小原日登美(自衛隊)と女子63kg級の伊調馨(ALSOK)が2人そろって金を取り、伊調は吉田より一足先に、女子として史上初の五輪V3を達成した。「プレッシャーになっていました」と3回目の五輪で初めて女子第2日に組み込まれた苦悩を明かした。
■4年間、様々なスタイルに挑戦の末に
吉田の持ち味はタックルだ。国際レスリング連盟(FILA)の理事たちからは「マシーン」とあだ名がつくほど正確な両足タックルを持ち味としてきたが、他国も打倒吉田を掲げて強化を図ってきた。その最たる例が決勝の相手、バービックだ。「過去10回くらい闘っている。どうにか私を倒そうとしている」と吉田に勝つために毎回研究の跡が見えるという。
吉田にライバルとの差を埋めさせないためにも、タックル禁止令を出し、組み手やいなし、グラウンド攻撃などの経験を積ませた。だが5月のワールドカップ(W杯=東京)で59kg級だった新鋭、ワレリ・ジョロボワ(ロシア)に両足タックルを返されて失点。2008年1月以来に黒星をつけられしまったことで状況は一変。最終的に吉田が選んだスタイルは、元の遠間からフェイントを多用しなからタックルで崩すスタイルだった。
北京五輪から4年間、様々なスタイルに取り組んできたが「やって本当によかった。いろいろなことを出して失敗して成功してこれた」と吉田。4年間集大成がロンドン五輪で爆発した。「タックル返しを受けないために、片足タックルを中心に攻撃しましたし、勝ちにこだわり何度も攻めないようにしました」。
以前のような派手なタックルは、何度も出さず、スコアも1-0か2-0とロースコアばかり。それでも大会無失点でクリンチなしは、五輪3連覇に内容も花を添えたと言っていいだろう。昨年の世界選手権で出た課題などをすべて明確にし修正してきた吉田。「賢いレスリングができたかなと」とカレリンの記録に並んだことに加えて、試合内容にも納得の表情だった。
■4連覇は目指すか? その前のカレリン超えの挑戦は
前日、金メダルを獲得した小原は引退を表明したが、3連覇の伊調は進退について4連覇の可能性も否定しなかった。吉田は伊調以上に記録を持っている選手。「さすがに少し休みたい」と切り出したが、9月の世界女子選手権(カナダ)には、五輪・世界選手権13大会連続優勝というカレリン超えの記録がかかっている。今の時点で出場する可能性は50%。「でも、挑戦して負けたとしても記録は並んでいるので(記録傷がつくわけではない)。けがもしていないし」と出場もまんざらではなかった。
4年後についても、最大のライバルだったバービックが現在34歳で銀メダルを獲得し、コンディション作りをうまく進めれば、この年齢でも世界のトップをキープできることを証明した。吉田は今29歳(今年30歳)。これからも多くのレコード更新が期待できそうだ。