2012.08.09

【ロンドン五輪第4日・特集】“坂本一家”に悲願の金メダル!…小原日登美(自衛隊)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 【ロンドン(英国)=増渕由気子 撮影=保高幸子】小原として坂本一家として、そして日本女子48kg級として初の金メダル獲得―。女子48kg級は、51kg級時代をあわせて世界V8の小原日登美(自衛隊)が、決勝で昨年世界2位のマリア・スタドニク(アゼルバイジャン)を破って優勝。
 
 51kg級で世界無敵の強さを誇るものの、五輪階級に採用されず、2度の引退を乗り越えての悲願達成に、涙、涙の金メダルとなった。優勝直後には「まだ実感がないんですけど、これが最後の試合と決めていたので、みんなに笑顔を見せられたことが幸せです」。
 
 新旧女王対決となった決勝戦は劇的な逆転劇だった。第1ピリオドはスタドニクのスピードとフットワークにリズムを崩された。タックルでテークダウンを奪われ、立て続けに失点し0-4。「すごい勢いで来て、相手が強く感じた。負けるかもしれないと一瞬よぎった」と相手の強さを認めた小原。
 
 その弱きを吹き飛ばしてくれたのがコーチ陣だ。「コーチから大丈夫って言われ、右回りで攻めろとアドバイスされた」と、セコンドの栄和人・女子強化委員長が具体的に指示。その指示通りに、第2ピリオドからじりじり反撃を開始。作戦が的中し第2、3ピリオドを1-0、2-0で奪って念願の五輪女王の座に就いた。
 
■五輪に魔物はいないと夫からのメッセージ
 
 2010年に元選手の小原康司さんと結婚。姉妹の絆に加えて夫婦二人三脚の力で五輪を目指してきた。世界選手権で聞く君が代と、五輪で聞く君が代は「やはり違う」と即答した。
 
 五輪は下馬評通りにはいかない。つまり魔物がいるとよく言われている。世界を数度取った選手が五輪だけ無冠の選手は何人もいる。事実、女子48kg級は2度も伊調千春が金メダルを確実視されつつ2大会ともに銀メダルだった。「(千春が)金メダルじゃなかったから、五輪はやっぱり世界選手権と違うのかなと思っていたが、五輪に魔物はいないと言い聞かせて臨んだ」。この信念を貫けたのは、夫・康司さんから出発前にもらった手紙にこの言葉が書いてあったからだ。
 
■“坂本家”にやっと五輪の金メダル
 
 学年5つ下の妹、真喜子は2004年アテネ、2008年北京五輪で代表候補として注目され、最後まで同五輪銀の伊調千春と闘った。小原も五輪予選に向けて55kg級に階級を上げて、同級の絶対女王、吉田沙保里(ALSOK)に挑戦するものの念願の五輪出場は果たせずにいた。北京五輪後に行われた東京世界女子選手権で、小原は51kg級で6度目の優勝を果たし、最強のまま引退宣言。翌年は女子ナショナルコーチとして、指導者になった。
 
 転機は1年後に訪れる。2009年の世界選手権で女子48kg級代表として出場した真喜子は力を出し切れずメダルを逃す。「私はこれ以上強くも弱くもならない。日登美がオリンピックを目指せばいいよ」と進言した。これまでは、姉妹そろって五輪を目指していた“坂本家”は、「家族で1つの金メダルに」に切り替え、その責務は長女の日登美が果たすことになり、今に至る。
 
 栄監督は「伊調家にはメダルが何個もある。どうしても坂本家にメダルを取ってほしかった」とコメント。今まで、悲運の女王としてさまざまな苦労があった小原。「全部帳消しになった。自分と妹の夢が叶ったと思います」と自身の現役を最高の形で締めくくった。