※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ロンドン(英国)、文・撮影=保高幸子】アレクサンダー・カレリン(ロシア)以来の“カリスマ”と言われた男が帰ってきた。
グレコローマン96kgで2004年アテネ五輪を制して一躍世界的なスターとなり、同年大みそかには日本の格闘技イベント「Dynamyte!!」(大阪ドーム)にも出場したカラム・モハメド・ガベル・イブラヒム(エジプト=右写真)。2008年北京五輪は13位とふるわず、その後、エジプトの96kg級は84kg級で世界3位の実力を持つモハンマド・アブデルファタハが階級をあげて参加していた。
彼が2011年世界選手権でロンドン五輪の出場枠を獲得し、イブラヒムの居場所はなくなったかと思われ、レスリング界から姿を消し引退したかとも言われた。しかし2012年五輪予選に突如現われ、1階級下の84kg級で出場して出場資格を獲得。今大会で、北京五輪以来初めて、4年ぶりに世界の舞台に再登場した。
「この3年間はビジネスで忙しかったんだ」とイブラヒム。長いブランクを経て、どこまでできるのかと思われていたが、往年と変わらず切れのある投げ技などをくり出し、決勝進出を果たした。「練習を始めたのは去年の10月から。9ヶ月しかやってない」そうで、試合勘を取り戻せるかなど、本人も実験だったのだろう。決勝進出を決めた時は優勝を決めた選手のように宙返りを披露し、コーチと抱き合って喜んでいた。
迎えた決勝の相手は、昨年世界5位のアラン・クガエフ(ロシア)。試合は地力でイブラヒムが負けていた。一度チャレンジをしたものの、彼自身にも負けが分かっていたのか、最後は審判の判定を受け入れ、マットを降りた。「金メダルの方が欲しかったけど、9ヶ月の練習で銀メダルという結果には満足している」と、表彰台では笑顔を見せた。
■2016年リオデジャネイロ五輪にも出る!
84kg級への転向は、長年チームメイトであり、ライバルとしてもやってきたアブデルファタハが96kgに転向して実力をつけためと考えられるが、イブラヒムは「96kg級はパワー中心。もっとテクニックやスピードのあるレスリングがしたかったし、減量は苦ではないよ」と理由を語る。
豪快なバック投げを披露したカラム
スターのカムバックは、レスリング界にもファンにもうれしい出来事だ。2位にもかかわらず、写真撮影に集まる人だかりは一段と大きく、彼の不動の人気を示していた。2004年アテネ五輪の金メダル、今年のロンドンの銀メダルと、8年をかけてエジプトに2個の五輪メダルをもたらしたイブラヒム。リオデジャネイロ五輪での金メダルを目指し、希有のカリスマが新たなスタートを切った。