2012.08.06

【ロンドン五輪第1日・特集】日本勢の1番手として力出し切れず…長谷川恒平(福一漁業)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 【ロンドン(英国)、文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫】「五輪でメダル確実-」と言われてロンドンに乗り込んだ男子グレコローマン55kg級の長谷川恒平(福一漁業)だったが、3回戦でデンマークのハカン・ナイブロムにストレートで敗退。ナイブロムが準決勝で敗れたため敗者復活に回れず、悲願のメダル獲得はならなかった。

 世界選手権こそ表彰台はないが、2010年アジア大会(中国)で世界V5&現役世界王者のハミド・スーリヤン(イラン)を破って優勝。今年3月の五輪アジア予選(カザフスタン)でも決勝でスーリヤンを破り、世界での実績は証明されていた。

 あとは五輪でメダルを取るだけ―。長谷川に課せられたのは、日本男子24年ぶりの金メダルに加え、ロンドン五輪レスリング日本勢の“切り込み隊長”として活躍する使命だった。長谷川も「初日に金メダルを取って、チームジャパンに勢いをつけたい」と口にしていた通り、相当な気合を入れて臨んだ。

■初戦で世界2位の選手に快勝

初戦で世界2位の選手に快勝した長谷川

 組み合わせの運は長谷川に味方した。コーチ陣がマークしていた、昨年の世界王者のロブサン・バイラモフ(アゼルバイジャン)、ロシアの新鋭ミンギヤン・セメノフ(ロシア)、2010年世界2位のチョイ・ギュジン(韓国)など強豪は反対ブロック。

 昨年2位のエルベク・タジエフ(ベラルーシ)やスーリヤンと同ブロックだったが、タジエフには今年1月のベービ・エムレ国際大会(トルコ)で快勝し、スーリヤンには最近2連勝していることもあり、長谷川の金メダルロードに光がさしたかに見えた。

 試合当日、予想通りに初戦(2回戦)のタジエフには、第1ピリオドをグラウンドで守って取り、第2ピリオドはスタンドからテークダウンを奪ってローリング攻撃につなげて3-0とし快勝した。世界2位をも手玉に取る姿に、早くも準決勝、決勝で戦う長谷川が容易に想像できる状況だった。

 3回戦のハカン・ナイブロム(デンマーク)はレベルの高い欧州予選1位で通過した選手だが、過去の実績から長谷川に分があると思われていた。

■クロスボディロックからの攻撃を防げず

 得意のスタンドでは1本背負いなども仕掛け、やや優勢でグラウンド戦の防御に回った長谷川。ここで相手のナイブロムは、クロスボディロックの立ち位置を選択。俵返しのそぶりを見せてから、縦のがぶり返しで投げ、長谷川の体が宙を回ってしまった。

 佐藤満強化委員長(専大教)は「持ち上げからのがぶりを注意していた」と話し、事前にチェック済みの事項だったが、「相手は格下。これくらい(の力)で守れるのではないかと軽く対応してしまったのではないか」と分析した。

第1ピリオド、低い軌道のがぶり返しを受けてしまった

 長谷川自身は「がぶり返しを受けた時の対応は、下がりながら回り込めば相手の重心がずれると思ったが、うまくいかなかった。(対戦相手を見て)気を緩めたことはない」と話し、油断はないと言い切ったが、もともとウィークポイントに挙げられていたクロスボディロックの対策が功を奏さず、これで「焦ってしまったところがあった」と、長谷川のリズムが崩れたのは間違いない。

 第2ピリオドのグラウンドの攻撃ではローリングが不発。相手が足でブロックしたと日本陣営はチャレンジ(ビデオチェック要求)したが認められず、長谷川の3回戦敗退が決まった。

 長谷川は「もっとやりたかったことはいっぱいある。わざわざ応援に来てくれた人たちに勝っている姿を見せたかったけど残念です」と下を向いた。進退については、「4年間死にもの狂いでやってきたので、今は空っぽの状態。今後のことはわからない」と明言を避けた。

 死にもの狂いでやってきた長谷川だから、素直に言えた言葉があった。「周りはスーパースターばかり。その中で闘えたことは、自分の人生の中で誇りに思うし、今後の人生の糧になると思う」。長谷川が歩んできたROAD TO LONDONに悔いはない。