※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美)
全日本学生選手権・男子フリースタイルの最軽量級は、日体大4年の高安直人が決勝戦で同門の2年生、森下史崇を2-1で破って初優勝を遂げた。結果を出したかった昨年は、部の不祥事により1年間の活動停止中により欠場。「やっても意味がない」とレスリングを辞めようと何度も思ったが、思いとどまって練習を積んできた。
松本慎吾監督は、「高安は調整がしっかりできていた。高校時代から(大きな)成績はないが、日体大で地道にやってきたことで、最後の大会で結果が出たと思う」と分析し、4年の最後で花を咲かせた高安を評価した。
千葉・佐倉南高校出身で、日本協会の斉藤修・審判委員長のまな弟子。高校時代から“世界の斉藤”に正しいルールの指導を受け、高校3年の時(2007年)の秋田国体グレコローマン50㎏級で3位に入ったことをきっかけに、日体大で競技を続けることを決心した。
だが、当時の部長、監督から「フリースタイルをやれ」という一言で、4年間、フリー専門で練習を積んできた。「1、2年の時は、日体大の先輩たちが強すぎた」と、強豪チームならではの洗礼を浴びたが、その中でもまれて高安自身も成長を続けた。
■世界ジュニア代表の森下を、絶妙な勝負勘で下す
決勝戦の相手は、「いつも試合で負けている」森下だった。森下は高校時代に日本トップ選手の湯元進一(自衛隊)を破ってスーパー高校生として脚光を浴び、今年も世界ジュニア選手権に出場するなど、ジュニア世代の看板選手。
だが、高安は「4年のプライドで、負ける気持ちは全くなかった」と勝つ気満々で臨んだ。「試合になると、森下はなぜか強くなるんですよ(笑)。練習ではポイントを取れるのに…」と、普段どおりの力を出せば勝機があると確信していた。
松本監督も「高安は練習でも1本取りに行くレスリングをしていた。森下は練習でポイントを取らせたりすることが多く、練習の差が試合に出たと思う。森下にはいい薬になったと思う」と、両者の明暗を分けた普段の練習について言及した。
高安を精神的にバックアップしたのが、北京五輪銀メダリストの松永共広(ALSOK)の存在だ。「夏合宿でいろいろ教えてもらいました。タックルの処理が下手だったので、その技術を教わりました」。決勝戦の第2ピリオドで森下からタックルを決めてテークダウンを奪ったのは、松永指導の賜物だったようだ。
決勝前にも、応援に来た松永から「もっと、ココという時にしっかり1点を取らないと」というアドバイスで、勝負勘に磨きをかけて挑んだことも功を奏したようだ。
この優勝で、11月の全日本大学選手権の日体大代表争いで1歩リードしたのではないか。「決勝戦でタックルを決めた時、本当に気持ちよかった」と、全日本学生の頂点に立った喜びを、しばしかみ締めていた。