※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
米国の男子フリースタイル57kg級に、「リトル・サデュラエフ(ロシア=97kg級世界王者)」と呼ばれる新星が台頭。東京オリンピック出場の有力候補に浮上した。
米国の同級は、2017年世界選手権2位のトーマス・ギルマンがパンアメリカン予選を制して出場枠を獲得。米国代表となる有力候補だが、3月20日に終わった全米学生(NCAA)選手権で、125ポンド(56.7kg)級を制したスペンサー・リー(22歳)が代表権を奪取する可能性を感じさせる活躍を見せた。
スペンサーは、総合優勝したアイオワ大で唯一優勝した選手。NCAAのタイトルは、2018年に1年生王者に輝いた後、2019年にも取っており、今回が同大学で7人目となる3度優勝。昨年の大会が新型コロナウィルスのため中止され、特別ルールで来年の大会への出場も認められているので、過去4人しか達成していない4度優勝の可能性も持っている。
ペンシルベニア州フランクリン高校時代に3年間無敗の144戦全勝の記録を樹立。同時にフリースタイルで頭角を現し、2014年に世界カデット選手権(スロバキア)で優勝し、2015・16年の世界ジュニア選手権(ブラジル、フランス)を連覇。世界レスリング連盟(UWW)によると、16歳で出場した2015年の優勝は、ジュニアで最年少の世界チャンピオンという。
カレッジ・レスリングと並行して2019年12月にはフリースタイルへ再挑戦。東京オリンピックへのトライアル予選となる全米選手権に出場して5試合に圧勝優勝。米国のあらゆるスポーツを含めて最も活躍した選手に与えられる「サリバン賞」を受賞した。
サリバン賞は、それまでレスリングではジョン・スミス(1988・92年オリンピック優勝)、ブルース・バウムガートナー(1984・92年オリンピック優勝)、ルーロン・ガードナー(2000年オリンピック優勝=アレクサンダー・カレリンを破る)、カイル・スナイダー(2016年オリンピック優勝)が受賞しているが、いずれもオリンピックで王者に輝いた後の受賞。
スペンサーは、オリンピックどころかシニアの世界選手権にも出場していない段階での受賞で、極めて異例の抜擢。結果のみならず内容も評価されたもようで、米国スポーツ界が認める“卓越した天才選手”であることがうかがえる。
今回の大会では、8日前にひざの前十字じん帯を損傷したが、それをだれにも言わずに大会に出場したと報じられている。それでもオリンピック最終予選への出場を明言し、ギルマンが取ってきた出場枠の奪取を目指す。
米国のフリースタイルは、74kg級(ジョーダン・バローズかカイル・デイク)、86kg級(デービッド・テーラーかジェーデン・コックス)、97kg級(カイル・スナイダー)がオリンピックの優勝を狙える階級とされてきた。しかし、65kg級でイアンニ・ディアコミハリス(関連記事)、57kg級でスペンサー・リーという新たなNCAA選手権の1年生王者が台頭。その2人が勝ち抜いて、軽量級も米国が東京オリンピックの台風の目になる可能性が出てきたと言えよう(注=65kg級は最終予選に出場枠獲得をかける。
米国のオリンピック最終予選は4月2~3日にテキサス州フォートワースで行われる。