※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
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「疲れたけど、楽しかった」。11月20日、東京・大久保のスポーツ会館で行なわれた第27回全国社会人オープン選手権のフリースタイル66kg級を制し、JOC杯を受賞した大沢茂樹(SRC育成選手=右写真)は、そう言って優勝の喜びを表現した。
今大会の大きな話題といえば、総合格闘家たちの大挙参戦だ。2004年アテネ五輪柔道90kg級銀メダリストの泉浩(プレシオス)、かつてPRIDEで活動した浜中和宏(Laughter7)、SRC育成選手の竹本雄飛…。泉のエントリーはスポーツ紙担当者の間でも話題になったが、10月30日のSRCの試合で痛めた両拳の回復具合が思わしくなく、今大会への出場は見送りとなった。フリー96kg級に出場した浜中も準決勝の下屋敷圭貴(NEWS=DERI)戦でテクニカルフォール負け。フリー66㌔級に出場の竹本も準決勝で力尽きた。
■プロの出場選手中、唯一気をはいて優勝!
そうした中、唯一気をはいたのは約2年ぶりにレスリングへの復帰を果たした大沢だ。茨城・霞ヶ浦高時代に全国大会の高校三冠王を達成。山梨学院大学へ進学後も、1年生で全日本大学選手権を制覇するなどエリート街道を突き進んできた。2008年北京五輪銅メダリストの湯元健一、高校の先輩で2006年世界選手権3位の高塚紀行とともに60kg級の「3強」と呼ばれていたこともある。
2008年7月には、総合格闘家への転身を表明。戦極(現SRC)やパンクラスを拠点にキャリアを積み重ね、現在はパンクラスのフェザー級(65・8kg以下)王座挑戦まであと一歩というところまで登り詰めた。
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だからといって、レスリングを忘れていたわけではない。今大会に出場したのは、2年後のロンドンオ五輪出場を真剣に目指しているからにほかならない。「オレ、66kg級では何のタイトルもない。ひとつくらいタイトルを獲っておかないと、予選の選考にも選ばれませんからね」。果たして、大沢は1回戦の瀬田匡平(宿毛市役所)をフォール(左写真)。続く2回戦では都築佑太(警視庁クラブ)から判定勝ちを奪うなど快調な出だしを見せる。
雲行きが怪しくなってきたのは、準々決勝の池田納誠(川内自衛隊)からだ。結果的に第2ピリオドでフォール勝ちを収めたが、途中から失速。レフェリーからアクションを促される場面が目立ってきたのだ。大沢は総合格闘技との違いを力説した。「レスリングの場合、ほとんど相手の触れていない時間がないじゃないですか。試合中はどこかコンタクトしている。その分プレッシャーがかかっている時間も長いですからね」。
■レスリングへの本格的復帰は来春?
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クライマックスは準決勝の岩井康輔(網野クラブ)との一戦だろうか。序盤から緊迫した探り合いが続く。勝負を決したのは、大沢の身体に染みついていたレスリングの技術だった。第1ピリオドを先取すると、続く第2ピリオドではチャンスと見るやタックルで攻め込んで3点を奪う。その後、場外ポイントで1点を失ったものの、2-1のスコアで勝ち、ピリオドスコア2-0のストレート勝ちを収めた(右写真)。レフェリーに右手をあげられると、大沢は大きくため息をついた。
「岩井さんは大学の先輩。試合前から結構きついかなと思っていたけど。案の定かなりきつかったですね。でも結果オーライでしょう」
決勝で対峙したのは野田寛人(自衛隊)。第2ピリオドこそ押し出されて失ったものの、第3ピリオドになると大沢はタックルでポイントを重ねて辛勝。本人の望み通り、66kg級で初めて栄冠を勝ち取った。「やっぱり自分はレスリングを11年やってきているので、ホームで闘えたというのが一番の喜びでしたね」
総合格闘技とレスリング。来年からは完全に二足の草鞋(わらじ)を履くつもりだ。「やっぱり僕の本業は総合。それはそれで頑張っているんですけど、自分のやり残したレスリングでもオリンピックでメダルを獲りたい」
今後は12月30・31日の両日に開催されるプロ格闘技のビッグイベントへの出場を目指すため、その1週間前にある全日本選手権への出場はパス。レスラーとしての再出発第2ラウンドは、来年5月の全日本選抜選手権になる予定だ。