※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
全日本社会人選手権のグレコローマン84㎏級は、2010年広州アジア大会74㎏級銀メダルの鶴巻宰(自衛隊)が若手を押しのけて優勝した(右写真)。
決勝の相手は同級のロンドン五輪予選にも出場した岡太一(自衛隊)。同門の後輩を相手に得意のグラウンド勝負に持ち込んで、第1ピリオドはしっかり守り、第2ピリオドはこん身のローリングを決めて勝利。「(階級アップですんなり)勝てるとは思っていなかった」と謙遜したが、同門の後輩に先輩格を見せ付けた。
鶴巻は2004年に大学2年生で全日本選手権を制した逸材。大学卒業後はさらに実力を伸ばし、2009年のアジア選手権で3位、同年の世界選手権では前年に行われた北京五輪王者を破るなど世界の舞台で活躍してきた。
同級のエースとしてトップを走ってきたが、北京五輪に続き、ロンドン五輪も出場することはできなかった。5月で28歳を迎えた。6月の全日本選抜選手権には出場せず、引退か、現役続行か、去就に注目が集まっていた。
鶴巻が選んだのは後者だった。74㎏級で五輪は逃したものの、やり残したことがあった。「とりあえず体重を気にしないでレスリングをしてみたかった。減量をしなければ動けるし、腰の痛みも取れるようになった。やりたかった技を使ってみたかった」。
■減量のない状態で、思い切ったパフォーマンスを
以前から練習では84㎏級の選手をも圧倒していたほど力があったが、大幅な減量のため、試合ではけがや腰痛がパフォーマンスを低下させ、練習どおりの力が出せていなかった。「74㎏級の時は技を磨くことより、体重調整やけがの治療が優先になってしまっていた」。
集大成のはずだったロンドン五輪を逃しても、まだやり残したことがあった。ロンドン五輪予選後から練習量を落とした形跡はなく、84㎏級にふさわしいビルドアップされた二の腕を駆使した組み手で若手を翻ろうした。
決勝で闘う鶴巻。この階級の若手成長株を撃破した
昨年の全日本選手権優勝は天野雅之(中央大職)で、2番手は昨年の世界選手権代表の岡。どちらも社会人2年目。若手のツートップに鶴巻が割って入れるかが課題だ。
ルール変更により、今年初めからスタンド戦で得点が入った場合、グラウンド戦は行われなくなった。グラウンドを中心に試合展開を組み立てていた鶴巻にとっては、スタンドの強化も新たな課題となった。今大会、準決勝で対戦した伊藤諒(自衛隊)も全日本レベルの表彰台常連選手。「岡も(伊藤)諒も強かった。スタンドでは押し負けていたと思う」と課題を次々と挙げた。
当面の目標は全日本で優勝して日本代表へ復帰し、2014年のアジア大会(韓国)の出場。減量苦から開放された鶴巻が試合のマットで真の姿を披露できるか-。