※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
2020年は川井友香子(ジャパンビバレッジ)にとって忘れられない1年になるだろう。3月に至学館大を卒業し、晴れて姉・梨紗子と同じジャパンビバレッジ所属の社会人レスラーとなった。
「今までは学生として部活動のひとつとしてやってきた。これからはレスリングが仕事。結果を出すことが仕事となり、それが会社の方々への恩返しにもなる。今までより、責任というか、今まで以上に結果にこだわってやっていきたい」
昨年12月の時点で至学館レスリング部の寮を出た。食事も最近は初めての自炊中心という生活を送る。「調理は慣れないことだらけ(苦笑)。ご飯を作ってくれた寮母さんに対する感謝の気持ちをあらためて感じますね」
本来ならば、今月開幕の東京オリンピックに姉妹揃って出場するはずだった。新型コロナウイルスの猛威が全世界に拡大したため、オリンピック開催は1年延期。取材日は7月2日、約3ヶ月ぶりに行われた代表合宿の初日だったが、友香子は「本当だったら、1ヶ月後にはオリンピックだったのに」と残念がった。
「でも、延期になってしまったことは仕方のないこと。そこはマイナスに考えたくない。逆に準備する時間が増えただけととらえたい」
久しぶりの代表合宿は友香子にとって、このうえもなく刺激的だった。「久しぶりに全日本のコーチの方々に会えました。いきなり元通りというわけではないけど、またここ(味の素トレーニングセンター)でレスリングができて本当にうれしい」
今回の合宿のテーマは「けがをしないこと」だという。「けが以外でこんなに長くレスリングから離れたことは初めて。感覚を少しでも戻すというか、具体的な技うんぬんではなく、けがをせず少しでも調子を戻せるようにしたい」
練習の拠点となる至学館大では、すでに6月中旬から練習を再開しているが、いつも通りの練習をしているわけではない。「部全体を何個かのグループに分け、時間をずらしてやっています。これから、どんどん統合されてやっていくと思いますけど、練習時間はまだ1時間くらいですね」
非常事態宣言が発令され、至学館大も閉鎖された時には、レスリングの「レ」の字もなかったと思い返す。「外で走ったり、ウエートトレーニングをやったり…。本当にできる範囲のことしかできなかったですね」
だからこそ無理はできない。合宿初日でスパーリングが行われることはなかった。友香子は「至学館でもまだしていない」と明かす。「練習では打ち込みやグラウンドくらいしかやっていないので、仕上がり具合はまだ半分にも満たないという感じですね」
とはいえ、レスリングの感覚は衰えていないと感じている。「離れていた分、ちょっと違うかなという部分はあったけど、悪いというわけではない」
3月後半、延期が発表される直前のことだ。友香子はオリンピックに向け気合を入れ直そうと思い、髪の毛をバッサリと切った。「ずっと邪魔だと思っていたけど、なかなか切る勇気がなかった。それから伸びたので、合宿に来る直前にもう一度カットしました。梨紗子からは『この方が似合う』と言われています(微笑)」
コロナ禍になっても、友香子の思いはコロナ前と何も変わっていない。「オリンピックで梨紗子と一緒に優勝することだけを考えて練習しています」
社会人1年生の伸びしろは無限大。あと1年で、どこまで強くなれるか。