※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
滋賀・八幡工高をから中京女子大学(現・至学館大学)レスリング部で伊調馨と同期だった岡田友梨(旧姓甲斐)さんは、巷で”着やせの神”と呼ばれるカリスマ・ファッションデザイナーとして知られている。
「着こなしのニーズは深い。ニッチ(隙間)だと思っています」
2015年秋、岡田さんは既製の服が合わない女性アスリート専門のブランド『KINGLILY』(キングキリー)を立ち上げた。
3年前、そのきっかけを聞くと、岡田さんは次のように答えている。「アスリートは大きいところは大きいけど、しまっているところはしまっている。”ドンッ、キュッ、ポン!”なんです。肩幅に合わせて服を選ぶと、詰まっていないところまで布があって太って見えたりする。お腹やお尻の部分がガバガバになったり。ファッションが決まるということが本当にない。私も現役時代は合う服がなく、それがストレスになっていた」
着眼点の鋭さにヒザを叩かざるをえない。ありそうでなかった女子アスリート専門ブランドは大当たり。地上波や一般誌(紙)でも、何度となく取り上げられている。今回、改めて取材すると、岡田さんは「私が現役時代の女子アスリートは、お洒落はしてはいけないというムードがあった。そういう世の中を変えたかった」と打ち明けた。
「私はオリンピック出場に自分の人生をかけていた。その夢は適わなかったけど、だったら、それに匹敵するくらい自分を夢中になるものを探さないといけない、と思ったんですよ。普通の人生では満足できないと思ったので」
選手としては2009年がピークだっただろうか。同年の女子51㎏級で、世界選手権(デンマーク)では3位、全日本選手権では優勝した。岡田さんは後者の方が記憶に残っていると言う。「51㎏級は坂本日登美(現・小原)先輩たちが(ずっと1位の座を)守ってきたけど、私が順位を落としてしまった。そういう意味で、世界選手権は心に残っていないし、むしろ申し訳なく思う。対照的に全日本選手権の方は決勝で(伊調)千春さんに勝って優勝した。周りは私が負けると予想していたけど、私はずっと千春さんを研究していました」
伊調千春に勝った瞬間のことは、脳裏に焼きついている。会場まで応援に来てくれた会社(当時はアイシン・エィ・ダブリュ所属)の人たちが立ち上がり、泣いて喜んでくれた場面にスポーツの素晴らしさを感じたからだ。
「自分の夢を追っているつもりでいたけど、スポーツは応援してくれるみんなを幸せにできるんだなと思いました。世間は千春さんというビッグネームに勝ったことが大きいと思う。でも、私にとっては、自分以外の人たちが共感してくれたことの方がもっと大きかった」
伊調千春に勝った直後に味わった感動は、その後の人生の指針となっていったという。
「今の仕事をしていても、あの瞬間を達成しようとしている。自分が命を注いでやっていることで、期待してくれている人、あるいは信頼してくれる人が幸せになってくれたらいいと思いながら活動しています」
最近は客層にも変化が出てきた。一般女性からのリクエストも多くなり、そっちの方が6~7割と主流になりつつあるという。「アスリートは服に困っているけど、ジャージでも許される。でも、一般の女性だと出産や年齢で体型が崩れたりするなど、どうしようもない事情を抱えている人もいる」
昨年秋には『「着やせの神」が教える どんな体型でもやせてキレイにみえる コーデの魔法』(洋泉社刊)を上梓した(右写真)。
現役時代よりかなり増量してしまったと打ち明ける岡田さんは、自分自身が格好のモデルになると笑う。「昔の自分の写真を見たら、本当に『これは誰?』と思いますよ、でも、いまの自分でも着こなし方で痩せて見える。説得力はメチャクチャ上がると思います」
最近は150人ものKINGLILYの会員とのやりとりが忙しく、中京女大時代のメンバーとはほとんど会う機会がない。岡田さんは「自分は目の前の仕事に一生懸命になったら、友人とも連絡をとらなくなってしまう性格」と嘆く。「でも、不思議ですよね。誰かの結婚式で旧友と再会したら、何年も会っていなくても当時と同じテンションで盛り上がることができる。レスリングをやっていて本当に良かったと思いますね」
オリンピックで金メダルという夢はかなわなかった。しかし、セカンドキャリアで岡田さんは金メダルに匹敵する活躍を見せている。(下写真:出版イベントで活躍する岡田さん=本人提供)