2012.06.26

【明治杯全日本選抜選手権・特集】男子フリースタイル60kg級・池田智(日大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

 明治杯全日本選抜選手権の男子フリースタイル60㎏級にシンデレラボーイが誕生した。日大2年生の池田智が決勝で2006年世界選手権3位の高塚紀行(自衛隊)を2-1で振り切って初優勝を決めた(右写真)

 男子フリースタイル60㎏級は、2008年北京五輪と今夏のロンドン五輪の2大会連続で湯元健一(ALSOK)が代表権を射止めたが、ともにプレーオフにもつれた末の代表決定。“群雄割拠”の構図は変わっていない。その中での優勝を決めたことには十分に価値がある。

 池田は「決勝の相手の高塚さんは大学の大先輩で、僕の憧れであり、尊敬する選手」と話す。その大きな壁を超えるための作戦を立てていた。「高塚さんは前にどんどん出てくるので、押し負けないようにした」。

 第1ピリオドは押し負けて下がったところを高塚につけ込まれてテークダウンを許したが、第2ピリオドは「押し返せて、タックルに入れた」と高塚を場外際まで押し返したところでポイントを奪取。第3ピリオドは0-0に終わったが、高塚が引いたボールは池田の攻撃を意味する赤が出た。池田は落ち着いてテークダウンを決めて勝利をものにした。

■昨秋の大学王者奪取から驚異の快進撃

 池田は京都・京都八幡高出身で、高校時代は全国ベスト8が最高の成績だった。日大に進学し、富山英明監督(日大教)から「タックルは正面から胸を合わせて取らないといけないと」という指導を繰り返し受け、才能を開花させることができた。

 高校時代から下地があったローシングル(低い片足タックル)に加え、両足タックルなど正攻法の攻撃も覚えた池田は、昨年11月の全日本大学選手権で学生王者の鈴木康寛(拓大)など有力選手を次々と破って優勝。

高塚の突進に苦しめられるシーンもあったが…

 これで自信をつけ、今年4月のJOCジュニアオリンピックでも勝って9月の世界ジュニア選手権(タイ)の出場も手に入れた。昇り竜の勢いで、シニアの日本一をも制してしまった。3大会連続優勝したことで、池田の実力は“ホンモノ”に格上げされたはずだ。

 憧れの高塚に勝ったことは満足した池田だったが、「今大会は全日本王者の前田翔吾選手などが出場していない」と、優勝におごる気持ちを見せず、「次は前田選手に勝って優勝したい」とも宣言したが、「(まだ)世界選手権に出るレベルではない」と、まずは学生で不動の地位を確立することを目標とする様子だった。

 だが、富山監督は「実績を残す選手は大学2年生くらいから一気に強くなって行くもの。池田もこの勢いで上に行かなければ行けない」と、今年中くらいに世界レベルの選手になる自覚を要求していた。

■日大学生から3名も全日本選抜王者が誕生

 軽量級のニューフェース誕生の原動力は“日大”にあった。今大会は五輪選手やトップ選手が軒並み欠場していることも理由の一つだが、男子で6人の学生が栄冠を勝ち取り、次世代のエースに名乗りを挙げた。その中の3階級が日大の学生だ。

 「初日にフリースタイル96㎏級の山本康稀が優勝して、1年生が優勝したんだから、自分もと思いました」と後輩の活躍に奮起した一面もあった。頼もしい若手成長株の中のエースとしての活躍が期待される。