※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=樋口郁夫)
世界選手権の国別対抗得点では、過去1度(2001年)しか中国の後塵を拝したことがない日本。2007年以降の4度の世界選手権でも、日本が1位、1位、2位、1位であるのに対し、中国は4位、6位、10位、7位。中国が抜群に強い国だとは思わない。しかし、ワールドカップの直接対戦では、中国に負け続けているのが現実。
「日本がベストメンバーではない」というのは理由になるまい。現地にいた中国協会関係者の話では、今年の中国は一、二軍の混合チームとのこと。将来を見据えて若手を起用していて条件は同じはず。団体戦は流れが勝敗を左右するという見方も、48kg級の坂本日登美(自衛隊)が勝って幸先いいスタートを切ったのだから、当たらない。
「アタックが少なかった」とは藤川健治コーチ(自衛隊)。日本選手の心のどこかに中国選手に対する恐怖心があり、それが金縛りとなって日本選手の動きを止めていることが考えられる。
■中国戦の5敗のうち、4試合がグラウンドの失点での黒星
あとひとつ考えられるのは、中国のグラウンドにおける“パワー・レスリング”が、体幹の強い欧米選手には必ずしも通用しないが、日本選手には通じること。逆に書くなら、日本はパワー・レスリングに対して大きな弱点があるのではないか、という可能性。
中国戦の5敗のうち、72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)を除く4選手は、ローリングかがぶり返しというグラウンド技によって敗れている(下写真)。ローリングの場合はわき腹を、がぶり返しの場合はけい動脈付近をがっちりと極められ、セコンドの「(バックを取られた)1点で押さえろ!」という声もむなしく、体が転がってしまった。0-1なら逆転の可能性もあるが、0-2や0-3とされたら、その可能性はぐっと低くなることは言うまでもない。
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51kg級・菅原。
がぶり返しからフォール負け。《VTR》 |
55kg級・松川。ローリングを計3度受けた。《VTR》 |
59kg級・斎藤。第2Pにがぶり返しを受けた。《VTR》 |
67kg級・井上。第1P1-0からローリング。《VTR》 |
現行ルールになってからグラウンド戦の重要性はかなり低くなっている。極端な話、スタンド戦の防御が完ぺきなら、グラウンドの防御力はなくとも勝てるルールだ。どの国でも、グラウンド練習よりもスタンド練習の比重が高くなっていると思う。当然、全体的にグラウンドの攻撃力も防御力も劣っている。その“常識”の裏をかかれた中国戦の敗戦であるような気がしてならない。
骨格や筋肉の問題なのかどうか分からないが、日本選手のわき腹を締められた時の防御力は、決して強くはない。1990年代の男子レスリングはそれが顕著に現れており、パーテールポジションの防御の克服が最大の課題だった(注・当時の女子のグラウンド技は腕取り固めなどが主流で、ローリングはポピュラーではなかった)。今回、次々に転がされた日本選手を見て、1990年代の男子のレスリングを思い出してしまった。
藤川コーチは「ローリングもがぶり返しも、グレコローマン流ですね。そういった技術が女子でも使われ始めた。デフェンスを考えていかなければ…」と話す。日本には今回の中国選手ほど強烈なローリングやがぶり返しをする女子選手はいない。実戦で通じる対策がどの程度できるかは分からないが、ここを乗り越えなければ、7階級ベストメンバーで臨む予定の来年の日本開催のワールドカップ(5月予定)でも、中国を破ることはできないだろう。
現行ルールになって、ややおろそかになっていたと思われるグラウンド防御の練習。「テークダンされても、1点で押さえる」という意識の徹底が望まれる。
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〇…中国には敗れたものの、3位決定戦のカナダ戦を6-1で快勝し、木名瀬重夫監督(日本協会専任コーチ)は「予選では、自分の力を発揮することという各自の課題ができなかった。厳しく言ったことによって、最後の試合では思い切った攻めができていたので、よかったと思う」と評価した。
世界選手権などでは、敗者復活戦へ進める場合を除いて負けたらそこで終わり。反省材料があっても、それを試す機会は次の大会を待たねばならないが、団体戦の場合はそれができる。中国戦の敗北を糧にカナダ戦は最高の形で勝ってくれたという。「こういう大会に出ることは必要ですね」と話す。
藤川健治コーチ(自衛隊)も「自分から攻撃すれば勝機を見い出せる。カナダ戦でそれが分かったと思う」と話し、「3位には満足できないが、負けを乗り越えていい試合をしてくれた。次につなげられると思う」と、選手が負けた悔しさと反省を最後の試合にぶつけてくれたことを褒めた。