※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
アジア選手権(4月23~28日、中国・西安)の男子グレコローマン63㎏級に出場する山田義起(日体大)は、努力の虫だ。沖縄・浦添工高時代は目立った成績を何も残していない。「県大会はいつも2位だった」と打ち明ける。「優勝するのはいつも後輩の徳比嘉(一仁=南風原高、現日体大)だったので、インターハイや国体に出場することはできませんでした」。
3年生の時の全国高校生グレコローマン選手権は初戦敗退。それでも、卒業後はグレコローマンをやりたかったので、日体大に進学した。「日体大はグレコローマンで活躍している選手が多い。そういう環境だったら、自分も強くなれると思いました」
大志を抱く山田の前に現実が立ちはだかった。「大学1年の時はレベルが違いすぎて、歯が立ちませんでした。練習では、ずっとボコボコにされていた感じがします」。案の定、大学1年の時も目立った活躍をしていない。しかし、大学2年に進級して迎えた4月のJOCジュニアオリンピックカップ60kg級では、いきなり準優勝という好成績を収めた。「いざ大会に出て相手と組んでみたら、『あれっ?』と思いました。いつのまにか強くなっている自分がいた」
何もしないで強くなったわけではない。練習でも日常生活でも、「どうやったら勝てるのか?」と四六時中考え抜いた末の結果だった。大学1年の時から山田は自ら進んで強い先輩の胸を借りる姿勢を貫く。「最初は相手にしてもらえませんでした。でも、その先輩に技の質問とかをしているうちに、『じゃあ、スパーリングもやろうか』と声をかけてもらえるようになりました」
4月11日に行われた公開練習でも、山田は太田忍(ALSOK)や遠藤功章(東和エンジニアリング)に自分から積極的にアプローチする形でスパーリングをしていた。「忍先輩は入学当初から面倒を見てくれました。(見どころがあった?)いや、自分には才能がないと思う。あったら、高校時代から勝っていたと思います」
今回のアジア選手権は、本来なら全日本王者の遠藤が出場するところだが、遠藤が階級を67㎏級に上げることになったため、全日本選手権の決勝を遠藤と争った山田にチャンスが巡ってきた。「年末から新年にかけての年越し合宿で松本慎吾監督(男子グレコローマン強化委員長)から伝えられました。すぐ実感は湧かなかったです。それでも、頑張ろうと思いましたね」
シニアの国際大会出場は今回が初。山田はSNSにアップされている同階級のアジア圏の強豪選手のビデオをチェックしている。「先輩たちに聞いたら、イランの選手が強いと言われました。おととし出場したアジア・ジュニア選手権(台湾)では、インドやトルクメニスタンの選手とは闘ったけど、イランの選手とはまだやっていないので、楽しみです」
一緒にアジア選手権に出場する男子グレコローマン67㎏代表の高橋昭五(警視庁)からは「アジア選手権とインカレはレベルが違うぞ」とハッパをかけられた。それでも、世界のグレコローマンで結果を残している先輩たちにもまれ、山田は自分の力を信じている。
「アジア選手権ではメダルを獲りたい」-。得意のディフェンスと腕とりを活かして躍進できるか。