※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子)
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2010年に一番飛躍した若手は、男子フリースタイル60㎏級の小田裕之(国士舘大=現国士舘ク、右写真)だろう。2009年12月の全日本選手権で優勝し、2010年全日本選抜選手権のプレーオフを制して9月の世界選手権(ロシア)に初出場。12月のアジア大会(中国)では銀メダルを獲得した。
2008年北京五輪銀メダルの松永共広(ALSOK)同様、全国中学生選手権で3連覇を達成するなどずば抜けた実績を持つ。持ち前の豪快な3点タックルは、キッズ上がりの選手の真骨頂と言えよう。
■激動だった小田の2010年
一転して苦しみも味わった2010年だった。世界選手権の代表権を獲得するまでは昇り調子だったが、夏場にのどに病気が見つかり、世界選手権後に緊急手術。アジア大会は辞退寸前にまで追い込まれるアクシデントもあった。なんとか間に合わせて銀メダルの獲得し、国内外での活躍をライバルたちに見せつけることができたが、激動の1年だった。
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多彩な技を持つ小田に、テクニシャンで知られた国士舘大の和田貴広コーチも舌を巻く。「自分なりにすごく考えてやっている。(OBになっても)朝練習も休まずやっている」と小田の努力を認める。練習では技のデパート全開。練習を見ているだけで、どんな試合になるのか楽しみになるくらいだ。
課題は、小田自身が認めるように試合でのメンタル面だ。世界選手権は緊張で実力を出せずに1試合で終わった(左写真)。その後のアジア大会決勝(モンゴル戦)、全日本選手権準決勝(湯元健一戦)では攻めずに終わって黒星。「タックルを返されるのが怖くて、攻められなかった」と涙を流して同じ言葉を繰り返した。
■攻める小田、見合う小田、どちらが真の姿なのか
だが、もう一つの小田のイメージがある。2008年全日本選抜選手権大会で、北京五輪の出場権を取ってきた湯元健一(ALSOK)にストレートで快勝した試合だ。試合開始直後から、タックルで何度も突進し、テクニカルフォールを奪って勝った試合は衝撃的だった。
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なぜ、こんな正反対なイメージが小田にはあるのだろうか―。その答えを本人はすでに導き出していた。「開始20秒で一本取れれば、楽になれるんです」。なるべく早い時間に先制点を奪っていれば、後半、相手が苦しまぎれに攻撃してくるところを得意のカウンターで攻略でき、小田のスタイルにがっちりとはまる(右写真=昨年12月の湯元戦は攻撃レスリングができず)。
思いどおりの試合展開ができずに後半まで無得点で進んでしまうと、負の思考が働き出す。「相手はカウンターを狙っているのではないか」「最悪クリンチで取ればいいのではないか…」。そしてクリンチの攻防を失敗してピリオドを落とすという負のスパイラルに陥る。いかに弱気な自分を捨てて闘えるかがかぎとなりそうだ。
「内容よりも勝ちにこだわりたい。選抜で優勝して、世界選手権でメダルが目標」と話す小田が暴れ馬と化せば、誰も止められないだろう。「攻めスタイル」で小田が2年連続の世界選手権出場を目指す-。