※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)
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最強女王の座は譲れない-。五輪3連覇を目指す伊調馨(ALSOK=右写真)が女子63㎏級を制し、休養明け後、2年連続で選抜王者となって世界選手権(9月・イスタンブール)代表の座を獲得した。
2008年北京五輪後にリフレッシュ期間をつくったが、復帰を果たしてからの伊調のレスリングは盤石と言ってもいいだろう。女子55kg級の吉田沙保里(ALSOK)とともにアテネ~北京五輪で2大会連続金メダルを獲得して場数を踏んでいるだけに、国内の63㎏級では2番手グループを引き離している状況だ。
■国内で敵なし! しかし、常に課題を持ってマットへ
世界選手権V4の永島聖子(スポーツビズ)もロンドン五輪出場を目指して復帰。伊調との最初の対戦(2009年全日本選手権)では第1ピリオドを奪う善戦で、伊調を最も脅かす存在と考えられた。だが、昨年末までの対決で3連敗していることを考えると、“肩を並べる存在”とは言い難い。
そんな伊調は、自分に課題を与えながら、ロンドン五輪の金メダルを見据えて、一試合一試合を闘っている。「日本人と外国人は闘い方が違うので、自分を確認しながら闘わないといけない」という彼女なりの考え方だ。
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今年は1月に「ヤリギン国際大会」(ロシア)、3月に女子ワールドカップ(フランス)に出場し、ともに無敗で最強女王の座を堅持。(左写真=盤石の強さで闘う伊調)
今月中旬にはアジア選手権(ウズベキスタン)への出場を決め、7月に行われるゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)の出場も視野に入れる。国内の独走状態に油断することなく、強敵を追い求めて実力アップに余念がない。
そんな伊調の出場する63kg級。伊調にとっては圧勝優勝が課題だろうが、外野から見れば、独走する伊調に2番手グループがいかに追いつくことができるか、というテーマもあった。
■33試合でポイント33-0の圧勝にも満足せず!
伊調は初戦(2回戦)の平野翔子(東海大)戦でフォール勝ち。準決勝の工藤佳代子(自衛隊)戦は2ピリオドともテクニカルフォールを奪い、順調に決勝へ。そこには、準決勝で永島聖子に勝利した昇り調子の渡利璃穏(至学館大)が進出してきた。
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昨年の全日本選手権の準決勝で対戦している両者。第1ピリオドはテクニカルフォールだったが、2ピリオドは伊調が1ポイントしか取れなかった。渡利はその後、先月初めのジュニアクイーンズカップに2連覇し、今年こそ世界ジュニア・チャンピオンが期待されるほどに力をつけている。しかし伊調の壁を超えることはできず、終わってみれば伊調の強さが目立った試合となった。(右写真=グラウンド攻撃もさえた伊調)
伊調は3試合で相手に1ポイントも与えず、ポイントの合計は33-0という結果を残したが、「内容のいい試合ではなかったので、納得はしていない」と、またも自分に課題を与えた。「自分なりのポイントの取り方、タックルの入り方ができていなかった」ことを反省しているのだが、彼女の理想がいかに高いところにあるかがうかがいしれる言葉だ。
確かに決勝の第1ピリオド、渡利のタックルを切られた場面があった。第2ピリオドはフェイントをかけてからタックルに入ったものの、またも切られるシーンがみられた。パーフェクトを求める伊調にとっては不満なことかもしれない。
けれども、その後のリカバリーができているからこそ、ポイントを奪われることなく勝利できる。やはり、伊調の強さは並ではない。9月の世界選手権では、今までにない伊調の強さが発揮されることだろう。