※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ブダペスト(ハンガリー)、文=樋口郁夫、撮影=保高幸子】アジア大会は3位に終わった女子53kg級の奥野春菜(至学館大)が5試合を勝ち抜き、昨年の55kg級に続いて世界一に輝いた。少し前には50kg級で須﨑優衣が宿敵をものともせずに下してV2を決め、「いい流れをつくってくれた」と気を良くしてのマット。自身も3月のワールドカップ(高崎)では7-6の勝利だったサラ・ヒルデブラント(米国)にテクニカルフォールで決着をつけた。
前回のヒルデブラントとの対戦では、タックルに入ってもなかなかポイントにつなげることができず、勝ったとはいえ反省の多い内容だった。「映像を見直して、タックルに入ったら止まらないことを心がけた」と、十分に研究しての勝利だった。
初出場だった昨年は緊張することもなく、「やることをやって帰ろう」という感じだったと言う。今年はアジア大会で優勝を逃したリベンジなどもあり、「絶対に優勝するという目標を立てて、緊張して臨んだ」。前日の第1試合は、「ここまで『怖い』と感じたことはなかった」と振り返るほどの緊張に襲われた。
3回戦のギリシャ選手との闘いでは、左手をマットについた時に相手の体重もかかって痛め、そのあとは左ひじにがっちりとテーピングしてマットに上がった。「試合になると痛まなかったです」とは言うものの、「悪化させてもよくないので、気にしてしまって足が動かなかった部分はあった」。
多くの難関を乗り越えての2年連続世界一。アジア大会からの2ヶ月は「自分の弱さと向き合って妥協しないでやってきた」と言う。コーチから不得意なグラウンドの攻撃力のアップも指示されており、それにもしっかりと取り組んだ結果でもあった。
ただ、アジア大会で負けた北朝鮮選手が不出場だったので、リベンジしての優勝でなかったことは、ちょっぴり残念そうだった。
しかし、この優勝で安閑とはしていられない。階級を住み分けし、55kg級で優勝した先輩の向田真優が東京オリンピックへ向けて53kg級に落とすことを明言しており、世界チャンピオン同士でひとつの椅子を争う闘いが待っている。毎日練習している相手。「身近で努力しているところを見ています」と、厳しい闘いを覚悟している。
「簡単には勝ちますとは言えませんが、入学した当初よりはできる部分があり、近づいている実感はあります。全力を出せるように練習し続けていくしかありません」。
かつて吉田沙保里と山本聖子、吉田沙保里と坂本日登美、伊調馨と正田絢子など、世界一同士がひとつの椅子をめぐって激しい闘いを演じた日本女子。その過酷な闘いの中から、オリンピック・チャンピオンが生まれた。東京オリンピックへ向けての53kg級は、どんなドラマが展開されるのだろうか。