※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
昨年、3・11東日本大震災の被災地であったにもかかわらず、困難を残り超えて大会を成功に終わらせた沼尻直杯全国中学生選手権。今年も通常通り行われた。全国中学生連盟の沼尻久会長(右写真)は「1年以上経った今でも、水戸市役所は復旧せず、道路もでこぼこ。いたるところに爪痕は残っています」と話したが、「水戸スポーツセンターの体育館はダメージが少なかったので、本当に助かっている」と、例年通り開催できたことに感謝の意を示した。
大会エントリー数が531人と過去最高に達した。沼尻会長は、「指導者が一生懸命に取り組んでいる証拠。福田富昭・日本協会会長が掲げた“レスリング王国復活”が近づいてきているのではないでしょうか」と分析したが、これにより今大会からの運営は大きく変わった。
1)敗者復活方式の取りやめで一発トーナメントになり、初日はベスト8が出揃うまで進行
沼尻会長「参加人数が増えても予定通りに大会を終えるため、敗者復活方式をなくした。その代わりシード選手を設けることになりました。この大会と秋の全国中学生選抜選手権での入賞者も対象としたい。中学生は成長期のため、階級が違っていてもシード権が生きるようにしていきたい。ただ、同じ県同士が1回戦であたってしまう懸念が出てきました。その点については了承いただきたい。
ただし、メリットがあります。昨年までは初日に準決勝まで行ってしまうので、大会最終日に優勝の可能性がある選手は各階級たった2名でした。それが8名にまで広がることが選手にとってプラスだと思います」
大会史上最多の選手を集めた今年の大会
沼尻会長「今回から、アリーナ内は国体のように一般客の応援を禁止しました。入場できるのも選手と次番選手の第2セコンドまでです。応援はすべて2階の観客席でお願いしました。これは、森下敏清審判長の意見です。選手数が増えても、これにより進行がスムーズに行きました」
森下審判長「中学生とはいえ、日本一を決める大きな大会ですので、形式にもこだわりました。(マットサイドに)一般客がいなくなり、第2セコンドまでが明瞭に見えるようになりましたし、審判長としての指示が明確に周知しやすかったです。この形式で今後も運営したいと思います。その代わり、マットを観客席に近づけて、2階から応援しやすいようにしました。2階席の一番前で見るのがベストポジションです」
■沼尻会長のこだわり、森下審判長の目標
運営側の努力により、大会人数が増えたことによる大きな影響は見られなった。沼尻会長は「550人くらいエントリーがあっても大丈夫なようにしたい」と胸を張る。沼尻会長の考えには、この大会の予選を作る考えはない。「あくまでもオープン参加の方針を貫きたい。地方予選をやることになると、出られなくなる選手がいる。中学生はレスリングの普及が大切です。これからレスリングをやろうという選手から全国大会の権利を奪いたくないのです。全国大会で優勝しなくても、将来強くなり可能性があります。湯元選手はともに全中で優勝してまいせんよね」とキッパリ話した。
運営を支えた森下敏清審判長
2012年の全中は、沼尻会長にとって被災地の復興に加えて特別な想いがあった。「今年はロンドン五輪の年。代表の多くがこの全中から育っていきました。湯元兄弟、長谷川恒平選手などは韓国遠征にも一緒にいって、声をかけてきた選手。高谷惣亮選手も優勝経験がありますね。ロンドン五輪で日本選手が頑張ってくれれば、震災復興のはなむけとなります」。“全中OB”が五輪で活躍することが沼尻会長の励みになっている。
沼尻会長には五輪選手を送り出した自負があれば、森下審判長にとって全中は、自身の原点となった史上初の大会連覇をした思い出の大会。それぞれの思いを胸に、全中のさらなる発展を目指す。