※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
アジア大会に続いて世界選手権も代表決定! 10月の世界選手権(ハンガリー)の代表決定プレーオフの男子フリースタイル74kg級は、昨年70kg級世界選手権銅メダリストで階級を上げて全日本選手権を制した藤波勇飛(山梨学院大)が、6月の全日本選抜選手権優勝の保坂健(自衛隊)に5分9秒、14−2のクニカルフォールで勝利。世界選手権代表をものにした。
5月上旬、練習中のアクシデントによる顔面骨折から約2ヶ月が経過した。5月中旬の東日本学生リーグ戦に無理をして出場したことが影響したのか、予想以上に治りが遅く、6月の全日本選抜選手権を断腸の思いで欠場した。多彩な技を持つ藤波が出場すれば、どんな形であっても優勝した可能性は高いが、その分、けがの治りが遅くなり、今度は8月中旬に控えるアジア大会に影響が出る可能性があったからだ。
アジア大会への抱負を問われると「普通に勝ちます」と平然と話す。そんな藤波だからこそ、プレーオフは、それ以上に平常心で勝つはずだったが、メンタルを左右する出来事が2つあった。1つ目は、妹の藤波朱理(三重・いなべクラブ)が同時期にクロアチアで行われた世界カデット選手権に出場し、中学生で唯一優勝したことだった。
藤波は「試合の前日に、妹が結果を出して、『勝てよ』というメッセージを送ってきた」と、兄妹間でやり取りがあったことを明かした。妹も約1年間、公式戦で負けなしと飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち続けている。力強い応援と思われるが、「負けられない」というプレッシャーになってしまった面があったようだ。
気合を入れた藤波だったが、その気合が空回りするアクシデント。「ウォーミングアップしすぎちゃった。試合前のルーティーンでジャンプするようにしているんですが、両足がつってしまって、本当に痛くて『終わったな…』と一瞬思いました」。
「自分の動きができなかった」と振り返ったが、マット上ではそんなアクシデントを微塵も感じさせないパフォーマンスを展開。スピーディーでダイナミックな技を次々と決めて会場を沸かせた。
2つ目は、初めて経験するワンマッチ形式の試合だったこと。「1回しか試合がないプレーオフは難しかった。ワールドカップなどのリーグ戦で1日1試合という経験はあるけど、このようなワンマッチは初めて。個人戦のトーナメントでは、強い選手とは決勝戦など上の方で当たることが多いので、初戦から少しずつ調子を上げることができるんですけどね」。
プレーオフとしての闘い方を学んだことに目をキラキラさせていた藤波。究極のワンマッチを制して、勝負強さに磨きがかかり、来月のアジア大会ではさらなるパフォーマンスを発揮してくれるだろうか。