※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
全日本選抜選手権の男子フリースタイル70kg級は、決勝で基山仁太郎(日体大)が全日本王者の乙黒圭祐(山梨学院大)に2分11秒、6−0で相手の負傷による棄権勝ち。大学1年生ながら初出場でビッグタイトルを手にした。
この階級は、昨年の世界選手権(フランス)で藤波勇飛(山梨学院大)が銅メダルを獲得し、衝撃の世界デビューを果たした。その後、オリンピック階級の74kg級に階級アップしたため、王者不在となった12月の全日本選手権では、藤波の大学の同期生の乙黒が優勝し、世界選手権に王手をかけていた。
そこに割って入ってきたのが、藤波の三重・いなべ総合学園高校の後輩にあたり、4月から日体大に進学したばかりの基山だ。決勝は、基山がアタックした時、基山の頭と乙黒の顎がバッティングしてしまい、乙黒が脳しんとうを起こしたため棄権。担架でマットを後にした。
基山は「相手にけがをさせてしまって、『勝った!』という気持ちではない」と申し訳なさそうに振り返ったが、大会当日の基山の動きは素晴らしかった。常に相手にプレッシャーをかけ、すきがあればすぐさま攻めて得点につなげた。準決勝では、全日本選手権2位の木下貴輪(クリナップ)を9-5と後半に突き放して勝つ殊勲。3月まで高校生だった基山の急成長ぶりが光った格好だ。
昨年の12月は全日本選手権に初出場を果たしたが、初戦(2回戦)敗退。天皇杯と明治杯はキッズ時代から名を馳せた基山にとっても思い入れがある大会だ。「小学校の時から見ていて、憧れの大会です。ここで自分が闘えるのかなと思っていた」。
初出場初優勝のきっかけになったのは環境の変化だ。4月から日体大に進学し、練習相手に不足なしの毎日を送る。2016年リオデジャネイロ・オリンピック57kg級銀メダリストの樋口黎(日体大助手)や湯元健一コーチと練習を積むことで、「技術、メンタル、体力が向上したと思う」。地力が大幅に向上したようだ。
もうひとつ、飛躍につながったのがレスリングスタイルを変えたこと。「高校までは、(攻撃力はあるけど)気持ちが弱くて守ってレスリングをしていました。守っていたら負けてしまうので、攻め続けることを心がけました」。優勝するために何が必要か考えた結果が、攻め続けること、だったそうで、それをやり抜いたことが初優勝の快挙につながった。
7月のプレーオフでは、決勝戦の相手、乙黒と再度対決する。5月の東日本リーグ戦で対戦した時は黒星を喫しているため、今回の白星で通算成績は1勝1敗だ。「世界選手権に出られるようにしっかり勝ちたいです」。
“ポスト藤波”は、藤波の大学の同期・乙黒か、高校の後輩・基山か−。