※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
今年のジュニアクイーンズカップでは、兵庫・INAGAWAクラブ(以下INAGAWA)に所属する小学生から初めて優勝者が出た。小学1・2年の部24㎏級を制した辻潤奈。クラブの代表を務める池畑耕造さんは「この大会で優勝することを目標のひとつとしてずっとやってきましたので、うれしい」と相好を崩す。
「中学生になってから優勝した子はいるけど、小学生は準優勝止まりでした。最後は本当に勝ちたいという強い気持ちの差が出たのかなと思います」
INAGAWAからは今大会に9選手がエントリーし、辻のほかにも小学5・6年の部30㎏級で池畑家の次女である葉菜が準優勝。3位も2選手出るなど躍進した。「決勝では大差で負けてしまったけど、葉菜も全国では2回ほど優勝しています」
池畑家は3人の娘が全員レスリングに励み、長女・菜々と三女・笑菜も今大会に出場した。妻の麻里子さんも審判を務めていたというのだから、ばりばりのレスリング一家。池畑さんがクラブに関わるようになったのは、2006年に開催された「のじぎく兵庫国体」がきっかけ。宝塚市に隣接する猪名川町はレスリングの開催地だった。
「それまで僕は朝霞の自衛隊体育学校にいたんですけど、呼ばれる形でやってきました」。猪名川のレスリングクラブは2001年にスタート。日体大出身の池畑さんの先輩が切り盛りしていたので、それを受け継ぐ形だった。「国体に合わせ、少年少女のクラブも盛り上げていこうということになった。猪名川をレスリングの街にしようという町のバックアップがあったこともよかった」
池畑さんが指導し始めた頃、会員は幼稚園児も含めて10人程度だったという。それから十数年たった現在、75人まで増えた。今大会の中学生34㎏級で優勝した原田渚や、この春に青山学院大に進学した男子フリースタイル74㎏級の神澤翔はINAGAWA出身の選手だ。
快進撃は続く。先日行われた中部日本ジュニア大会では団体戦で史上初の2連覇を達成した。「幼稚園児から小学生まで階級を区切って7階級で争う大会なんですけど、チーム力と個人の力が問われるので非常に面白い。母校である日体大の連覇記録に近づけるように優勝を重ねていきたい」
INAGAWAは一朝一夕で強豪チームになったわけではない。すべては地道な努力を積み重ねた結果だ。「最初は町の小学校にレスリング・マットを持参して、授業のコマの中で2時間ほどレスリング教室をやったりしていました。それがきっかけでクラブに入った子もいると思う」
当初は地域の大会ですら活躍できないレベルだったので、まずは地域の大会で優勝することを目標に掲げた。「選手や保護者たちは全国大会に参加したいという思いも強かった。だから全国大会でもしっかり活躍するということを第二の目標としてやってきました」。
クラブでは小1から中学生まで同じ練習をすることを心がけている。「レベルは上手な選手に合わせます。上手にできない子は頑張って(上のレベルに)ついていけるようにと働きかけます」。具体的にいうと? 「小学生には『うまいお兄ちゃんお姉ちゃんを捕まえなさい』と指示する一方で、年上の子には『年下の子から一緒にやろうと誘われたら断ったらダメ』と指導しています」
夢は自前のレスリング道場を持つこと。「現在は地元の高校と地域のスポーツセンターを借りて練習しているけど、将来的には毎日好きなように練習できる環境を整えたい」-。