※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
山梨・韮崎工業高校レスリング部-。2012年ロンドン・オリンピックでOBの米満達弘(自衛隊)が金メダルを取り、昨年の世界選手権ではOBの文田健一郎(日体大)が日本男子選手権として34年ぶりの優勝を果たした。今年、安楽龍馬がアジア・ジュニア選手権で優勝するなど現役高校選手も活躍。今後も“世界一製造高校”を歩む可能性は十分だ。
高校時代に米満や文田を上回る実績を残している現役選手がいる。山梨学院大4年生の小栁和也。文田と同期生で、2013年の世界カデット選手権(セルビア)グレコローマン54kg級で優勝。米満も文田も達成できなかった“高校生での世界タイトル奪取”を達成。将来が期待された。
山梨学院大でも実力を発揮。1年生の時から東日本学生リーグ戦で起用され、フリースタイルに専念して全日本選手権57kg級で3位に入るなどした。しかし、その後は学生の大会でも2位や3位が多く、優勝には恵まれなかった。先月、「山梨学院大」のシングレットで闘う最後の大会となる全日本選手権のフリースタイル61kg級で優勝。「最後の最後で優勝できてよかったです。ホッとしました」と胸をなでおろした。
4月からは自衛隊でレスリングを続け、いずれ57kg級に戻り、大学の先輩でもある世界王者の高橋侑希(ALSOK)に挑む。
厳密には2015年東日本学生秋季新人選手権での優勝経験がある。しかし、新人選手権は一度優勝した階級には出場できないため、本当の強豪は出てこないケースも多い。「自分の中ではタイトル獲得とは思っていない。大学でタイトルを取れていないことが引っ掛かっていた」と言う。
全日本の大会で2位、3位に入るのだから、実力は十分にあると言えるだろう。しかし、学生の大会でも、優勝候補の強豪を破りながら2位や3位で終わることが多かった。「プレッシャーに弱いんですかね…。よく分からないです」と首をひねる。山梨学院大の小幡邦彦コーチは「集中力が続かないことがあった。強豪に勝ったあと、気持ちが途切れることもあった」とその原因を分析する。
今回は、自分の階級を捨てて61kg級へ挑んだことが正解だった。9月から国内外の大会が続き、U-23世界選手権(ポーランド)から帰国して1ヶ月もしないうちに全日本選手権があった。早朝計量の実施により、「57kgに落として、その数時間後に試合をして体が動く自信がなかった」との理由で階級を上げたが、その“自信のなさ”が、体がしっかり動くことにつながった。
決勝はこの階級で世界選手権出場もある有元伸悟(近大職)が相手。「リードしても逆転されることが多かったので」と、最後まで気を抜くことなく闘えたのは、ばてることがなく、試合が終わるまで集中力が続いて動けたからに他なるまい。見事なテクニカルフォール勝ちでの日本一奪取だった。
「飛び込みタックルとくぐりしかないことが周囲にばれているので、相手を崩して攻めることが課題」と克服すべきことは多いが、やっと同期の文田の足元に追いつくことができた。「うらやましかった」という文田の世界一奪取。今は胸を張って「2人で東京オリンピックに出たい」と口にできるようになった。
そのためには、オリンピック階級の57kg級に戻さなければならないが、今年の日本代表争いは61kg級でアドバンテージがある。自衛隊との話し合いになるが、今年は61kg級で世界選手権出場を目指したい気持ちだという。
この階級の世界王者はアゼルバイジャンのハジ・アリエフ。U-23世界選手権で同じアゼルバイジャンの選手と闘って敗れており、世界一はまだ高い位置にあることを肌で感じているが、「強い選手とやってみたい。負けてもいいから、自分の力を試してみたい」と気持ちは前向きだ。
直近では、今月末からのイラン遠征に選ばれており、リオデジャネイロ・オリンピック57kg級3位のハッサン・ラヒミら強豪選手との練習が予想される。「楽しみです。ここで鍛えて、アジア選手権(2月27日~3月4日、キルギス)で優勝を目指したい」と言うから、気持ちは最高に乗っている。
生まれは長野県(小諸キッズクラブ出身)。志願して韮崎工高へ進み、基礎を学んだ。グレコローマンは“世界一”に輝くほどにまでなり、「グレコローマンの経験は大きかった。投げ技もできるし、場外際の身のこなしなど役立っていることは多い」と振り返る。
同県からは、まだオリンピック選手は生まれていないので、第1号を目指すことになる。高谷大地(65kg級)ら軽量級で好選手を抱える自衛隊での飛躍が期待される。