2012.05.19

【東日本学生リーグ戦・特集】5年ぶりの優勝も、監督の胴上げは三冠獲得までお預け

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫)

優勝を決めた松本岬。セコンドの松本監督もガッツポーズ

 今年の東日本学生リーグ戦は、昨年二部リーグで優勝し、一部に復帰したての日体大が、Bグループ1位で4年連続決勝進出を果たした拓大を5-2で下し、5年ぶり26度目の優勝を飾った。

 日体大はAグループの初戦で3連覇がかかった早大と対決。4-3で振り切り、優勝候補の一角だった山梨学院大にも5-2で勝利。下位チームに対しても、とりこぼしなく勝って7戦全勝でグループ1位を決め、決勝へ進出し、勢いをもって栄冠をつかんだ。

 松本慎吾監督は「OB、保護者会、いろいろな人たちに支えられてつかんだ優勝。長い長いトンネルから抜け出した感じ。本当にうれしい。日体大の快進撃はこれから。夏にはOBたちが出るロンドン五輪もあるし、そのあとに全日本学生選手権、全日本大学グレコローマン選手権、全日本大学選手権と続いていきます。すべてが楽しみです」と感無量の様子。

 優勝の胴上げで宙に舞った井上貴尋主将は「チームワークがあったというより、一人ひとりが、自分の仕事をしてくれたし、誰かが負けたら、誰かがカバーするということができた。今年、日体大は復活の年。いい年にします」と振り返った。

■一部復帰の“初戦”は黒星スタート

 日体大は2009年秋に部員の不祥事で活動停止処分を受け、2010年のリーグ戦では自動的に二部リーグへ降格。処分がとけ、二部リーグでの再起となった昨年の大会で優勝。今年一部リーグに復帰した。

優勝が決まり、マットになだれこんで喜びを表した日体大選手

 松本監督は、3年ぶりの一部リーグでの試合の目標を「優勝」とするのみならず、「全日本大学グレコ、全日本大学選手権で優勝して三冠」を今年の目標として、きっぱり宣言して乗り込んできた。

 戦力も十分にあった。55㎏級の森下史崇は全日本学生選手権2位で、先月のJOCジュニアオリンピックは2連覇。66㎏級の井上は全日本大学王者、74㎏級の小石原拓馬は66㎏級全日本学生チャンピオン、96㎏級の佐々木健悟は84㎏級の全日本大学王者と、チャンピオンクラス4名を擁しての布陣だった(JOCジュニアオリンピック以外は昨年の成績)。

 だが、全員が一部リーグのマットを踏むのは初めてという状況だった。初戦から天王山の早大戦という状況が加わったことで、トップバッターの55㎏級・森下は「リーグ戦の場にのまれてしまった」と調子が出ず、早大の西洸大にまさかのストレート負け。日体大の一部復帰の“初カード”は黒星スタートとなった。

■日体大-早大の主将対決で雌雄決する

 日体大は今回、軽量級から一気に勝負をつける計算で臨んできただけに、森下の負けはチームの痛手だった。だが、今回の正メンバーで数少ない3年生だった森下の負けに奮起したのは、4年生だった。

 60㎏級の谷田旭が勝利し1勝1敗に戻して迎えたのが、66㎏級の井上貴尋-早大・田中幸太郎の主将対決だ。“主将の自分が勝って流れをものにしなければならない―”この想いが強かったのは、井上の方だった。

MVPの井上と兵庫から応援に駆け付けた家族

 66㎏級の若手のホープとして評価が高い田中に対して、つねに優位に試合をすすめ、第1ピリオドは鮮やかな両足タックルを決めて5-2、第2ピリオドは先制されるも、その後に体勢は低いながらもバック投げを決めて3-1と逆転し、ストレートで撃破した。

 「昨年の全日本大学選手権では守って勝ったけど、今回は自分から攻めて勝つことができた」と内容満点の勝利。この井上の勝利が74㎏級の小石原、96㎏級の佐々木に勢いを持たせ、4-3で昨年王者から勝利を奪った。

 Aグループの山梨学院戦や、決勝の拓大も見ごたえ十分の試合だったが、やはりヤマ場は初戦の早大と言えるだろう。この一戦で調子を上げた井上、佐々木は全勝。MVPには井上が選出されが、佐々木も無失点と重量級の柱として大車輪の活躍を見せた。

 5年ぶりの優勝、そして悲願の復活優勝を遂げたが、松本監督の胴上げはなし。同監督が「秋の2大会で勝って、三冠を達成するまで胴上げは受けません」と自身のポリシーを挙げれば、対する井上主将は「絶対に自分たちで三冠を達成して、松本監督を胴上げしてみます」と宣言してみせた。