※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) 鈴木博恵(クリナップ)
盤石の試合内容だった。5月のアジア選手権(インド)で2位に入った古市雅子(日大)との決勝は「接戦になると思っていた」というが、技を次々と決めて最後はフォール勝ち。珍しくガッツポーズを披露し「自分から入って取って、グラウンドでも返せたので、思わず出てしまった」と笑顔を見せた。
昨年のリオデジャネイロ・オリンピックの代表最有力候補と見られながら、前年夏の左ひざのけがで戦線離脱。最終的に代表の座を渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)に譲った。「オリンピックに出て、やめようと思っていた」という鈴木は、レスリング人生の集大成と位置付けた晴舞台に立てず、失意のどん底に沈んだ。
代わって最後のステージと決めた昨年12月の全日本選手権で優勝し、これで本当に辞めるつもりだった。ところが、鈴木の頑張りを見守ってきた会社の人間や両親から返ってきた言葉は「お疲れさま」ではなかった。
「周囲から『天皇杯(全日本選手権)も優勝したし、いま辞める必要はないんじゃないか。まだまだ身体も動くし、限界じゃない。しっかりやり切った時点で辞めたほうがいい』と言われました」
決勝で闘う鈴木博恵
大きなけがを経験し、一度は本気でやめようと考え、悩み、苦しんだことで、今までとは違った気持ちでレスリングと向き合うようになっている。
「前まではどうしても勝たないといけないという気持ちが強く、精神的に試合前はきつかった。いまは開き直っているというか、一度は辞めようとして、それをいまやっているんだから、頑張ればいいという感じです」
世界選手権に向けて「またパワーのある外国人選手と戦えると思うとワクワクします」と語った。世界選手権はこれまでに3度出場して最高は7位。再び海外の舞台で勝負できる幸せをかみしめ、自身初のメダル獲得を目指す。