※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) インターハイへ向けて弾みをつけた田南部夢叶(東京・帝京)と父でありコーチの田南部力さん
昨年から2階級アップ。田南部はその理由をオリンピックの階級変更を挙げた。現在の自身の体重に一番近い階級は53kg級だが、2020年東京・オリンピックへ向けては当日計量の54kg級に変更される可能性が高い。
昨年後半はシニアの53kg級を見据え、高校の大会では52kg級を主戦場としていたが、「54kg級に向けて体も作らなくてはいけないし、体重を落としていて意味があるのかと思うようになった。将来を見据え、減量せずに自分の動きを出す」という目標を掲げ、今回は56kg級に出場してきた。
■さえたアンクルホールドも「得意技とはまだ言えません」
レスリング界は二世選手がたくさん活躍しており、田南部もその一人。父は2004年アテネ・オリンピック銅メダリストで、昨年まで全日本コーチを務めていた田南部力さん。田南部は中学3年間をJOCエリートアカデミーで過ごし、高校からはアカデミーを卒業してコーチを父に依頼して練習に励んでいる。
この大会の初戦は、奇しくも元世界女王、成國晶子さん(旧姓飯島)を母に持つ成國琴音(東京・文化学園大杉並)と対戦という“二世選手対決”となった。ともにキッズ時代からレスリングを習い、強くなってきた。「エントリーを見て同じ階級と分かった時、小学生の時以来の対戦になるかも」と闘うことを覚悟していた。小学生時代は同じ階級だったのでよく対戦したが、戦績は全敗だったという。
決勝で闘う田南部夢叶
「得意技のアンクル」と発言したあと、田南部は「コーチ(父)に『誰にでもかかる技じゃないと得意技と言ってはいけない』と言われているので」と、すぐに撤回した。家族がコーチということで反抗することもあるようだが、教えることを何でも実践できてしまう父を見て、「最終的には何も言えなくなる」と父の技術のすごさに舌を巻く日々だ。
■JOCエリートアカデミーの先輩や同期の活躍が刺激に
アカデミー時代の同期、須崎優衣や南條早映(ともに東京・安部学院)が昨年の全日本選手権で優勝し、先輩の向田真優(至学館大)が55kg級で世界チャンピオンになり、東京オリンピックのホープとして注目を浴びている。
特に須崎に関しては、アカデミー時代は同門でライバルという関係だった。「同じ環境で、同じ練習して、同じものを食べているのに、優衣ちゃんの方が強くなっていった。1回の練習に対する姿勢など素直にすごいと思っている」。けれども田南部自身もアスリート。「優衣や早映はできるぞ、と言われると悔しくなる」と、才能に恵まれたライバルたちと比べられることがいい意味で刺激になっている。
現在は日体大の練習に参加させてもらい、実力を伸ばしている。田南部と父は「今回の優勝は日体大のお姉さんたちのおかげ」と口をそろえた。今年は高校のラストシーズン。「まずは全日本選手権を目指し、確実にステップアップしていきたい」と、元同門たちに負けじと飛躍を誓った。