※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子)
今夏のロンドン五輪予選は、3月のアジア予選が終わり、第2ステージは今週末の欧州予選を残すのみ。いよいよ大詰めを迎えている。最終ステージは、4月27~29日の中国大会(太原)、5月3~5日のフィンランド大会(ヘルシンキ)と1週間おきに行われる。
3月のアジア予選で日本は6つの出場枠を獲得し、残るは、男子フリースタイルでは84・96・120級、グレコローマンでは74・84・120㎏級の6階級となった。この中で、2004年アテネ&2008年北京両五輪で松本慎吾コーチ(現日体大監督)が出場を果たしたグレコローマン84㎏級は、日本勢として3大会連続出場がかかっている。
松本コーチは北京五輪で現役に区切りをつけ(フリースタイルで1度だけ全日本選手権に出場)、現在は日体大の監督、そして男子全日本チームのコーチと指導側に回った。松本の後を引き継ぐのは、中大出身の選手として30年ぶりに全日本王者となった天野雅之(中大職)だ。3月のアジア予選では1回戦で敗退したが、次回の中国大会で悲願の五輪切符を目指す。
■五輪への厳しさを知ったアジア予選
昨年は全日本選抜選手権、国体、全日本選手権で勝ち、年間の“三冠”を獲得した。世界選手権はプレーオフで岡太一(自衛隊)に敗れ、出場はかなわなかったが、十分に飛躍の年になった。その勢いをアジアの舞台でも生かしたかったが、「正規のナショナルチームは初めて。五輪がどういう場所なのか分かっているつもりだったけど、想像以上だった」と、経験の差が出た結果だと振り返る。
アジア予選、ローリングに失敗した天野
練習では様々な場面からの練習を積み、どんなところからも得意のリフトを出せる準備はしていたが、「自信のある技ではなかった。それだけ練習量が足りなかったんだ」と反省を口にした。
試合直後こそショックはあったが、引きずってはいない。カザフスタンから帰国すると、部員や中大体育会の仲間が夕飯を作って出迎えてくれた。「帰国後、みんなが作ってくれたキムチ鍋のサプライズは本当にうれしかった。中大の部員をはじめ、多くの仲間が、『まだ終わっていない!』と励ましてくれましたし、自分一人で闘ってないんだなと感じました。だから次のチャンスは絶対にものにします」。気持ちの切替えは完全についたようだ。
■中大の仲間に恩返しを
天野の胸に深く刻んであるのが、“ある選手”の存在だ。「この階級は、松本慎吾さんがアテネ、北京と出た階級。僕は慎吾さんの背中を見て育ちましたし、この日本の伝統を守りつつ、責任を持ってオリンピックに出たい」と話した。
天野は27日からの中国大会へ向け、修正すべき点をすでに理解している。「スタンドで自分から崩しても、その後、相手を放してしまう。要するに詰めが甘い。相手を崩したら、押してたたみ掛けなければ。スタンドの崩しを重点的にやっています」。スタンドの出来が中国大会でのキーポイントとなりそうだ。
全日本合宿で練習する天野
「キャプテンの森達也をはじめ、多くの部員が僕の練習につき合ってくれるんです。特に3年の平川一貴はこの2年間、毎日『今日は何時からですか?』と聞いてくれて、本当に感謝しています。残業が多いときは夜9時から練習という時もあります。職場や人には本当に恵まれているんですよね」。
天野に五輪への練習に専念してほしいと、職場の配慮で今回は初めてフルで全日本合宿に参加することができた。職場と仲間の後押しは、天野にとって大きなパワーとなっている。「今、一番の楽しみは、五輪代表を決めて、仲間に『取ったどー!』と報告することです。絶対決めます!」
松本コーチが作った伝統を守るため、そして中大勢として40年ぶりの五輪出場を果たすため―。二つの約束を天野が必ず守ってみせる!