※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
大会MVPを獲得した志土地
■元世界2位を破った昨年の世界選手権
昨年は浮き沈みの年だった。4月のジュニアクイーンズカップの51㎏級で優勝を果たし、約1ヶ月後の全日本選抜選手権でも初優勝。ジュニアとシニアと “ダブル世界選手権”の代表となった。
飛ぶ鳥を落とす勢いで7月の世界ジュニア選手権は優勝。初の世界選手権では、2009年世界2位のハン・クンオク(北朝鮮)を破り、5位とまずまずの結果。次世代のホープを感じさせる勢いで、シーズン締めくくりとなる12月の全日本選手権は、小原日登美(自衛隊)が獲得した五輪出場枠を狙って48㎏級にシフトチェンジした。しかし2回戦敗退と苦い結果に終わっていた。
「五輪代表はもう決まった」と気持ちを切替えた志土地は、再び51㎏級にエントリーした。「現時点での体つきからは51㎏級がベストです」ときっぱり。当面は同階級で世界を狙うようだ。
■調子が悪くても、悪いなりに勝つ気持ちになれた
“全日本選抜チャンピオン” “世界ジュニア選手権優勝”と箔をつけて臨んだあとの挫折では、取材中に苦笑いも見せたが、心の中は悔しさで満たされていた。今回の勝因は「全日本選手権で負けたから、勝てた」-。黒星を乗り越え、また一つ成長した志土地の姿があった。
接戦の末に全日本チャンピオンを破った志土地(青)
これが功を奏したのか、2回戦でライバルの田中亜里沙(早大)に2-1で競り勝ち、決勝戦では全日本チャンピオンの宮原をも2-1で振り切って優勝できた。田中は同学年で、対戦成績は1勝2敗と負け越していた相手。本調子ではない状態であっても競り勝てたことは、志土地の自信となったことだろう。
もっとも、発展途上の選手に「満足」という言葉はなく、試合後の志土地は「試合内容に満足してない」と終始、口を真一文字に結んでいた。それでも、その顔に笑みがパッと咲いた瞬間があった。「実は、今日(7日)は誕生日なんです。絶対にいい誕生日にしたかった」―。20歳の誕生日を大会MVPで自ら花を添えた志土地。「JOC杯(4月21~22日)も優勝して、文句なしで世界ジュニア選手権に出場したい!」と、最後は前を向いていた。