※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
持ち点2ポイント同士tなった闘いは、湯元(赤)が一日の長を見せた
2008年北京五輪に続いての2大会連続の五輪出場。同55㎏級代表に決まった湯元進一(自衛隊)とともに、日本レスリング界で史上初の“双子で五輪”を達成した。
■変則プレーオフの初戦に魔物
湯元は、昨年の世界選手権で3位となって五輪出場枠を獲得。年末の全日本選手権で優勝すれば代表となったが、初戦で小田裕之に敗れて代表内定はお預けとなっていた。
プレーオフは湯元が圧倒的に有利な変則トーナメントで行われた。湯元は決勝で1度勝つだけで代表に決まるが、ノーシードの石田智嗣や高塚紀行は、計7回勝たないと代表になれないという厳しいもの。前田も1勝したただけでは代表にはなれない。
前田との初戦、一本背負いを受けた湯元(赤)
その状況では、これまでに一度も負けたことがない前田が相手でも勝つのは簡単ではない。第1ピリオドの中盤に一本背負いの奇襲を防げずに1失点。そのままピリオドを落とすと、第2、3はクリンチを分け合う形になり1-2で試合を落とした。
■弟、進一の叱咤激励で覚醒
五輪選考に直結した2007年の世界選手権、2008年の全日本選抜選手権、2011年の全日本選手権と、大事な大会ではいつも初戦黒星だった。そして今回も。目の前が真っ暗になりかけた時、湯元を救ったのは弟の進一だった。「何やっとんねん!! オリンピックに誰が行くんねん!! おまえが勝てないパターンは一つ、攻めない時や。タックルを出せば必ず勝てる」という叱咤激励が、湯元の目を覚まさせた。
初戦では自分よりも先に五輪を決めた進一の存在が「怖さや不安」を引き起こしていたが、負けた自分を、自分のことのように心配しサポートに回る進一の存在が「安心」に変化した瞬間、湯元の気持ちは完全に前を向いた。「よし、次はガンガン攻めて見せる!」
レスリングは個人戦。でも湯元兄弟は常に双子の団体戦で、どんな時も2人で乗り越えてきた。前田との2度目の対決は、初戦と違って2人が心を一つにして闘った。湯元は、自信をみなぎらせ、序盤からタックルでガンガンしかけて前田を追い込んでいった。
■夢の双子で五輪出場へ
セコンドで兄を励ました弟・進一(左)
9歳から、双子の弟・進一とともに家族ぐるみの夢であった双子で五輪を達成。湯元は、「2人でいくオリンピックはめちゃくちゃうれしい。幸せです」と笑顔で振り返った。
どちらも五輪で金メダルが狙える、”日本のお家芸”フリースタイル軽量級。1988ソウル五輪以来、24年ぶりとなる金メダルを「湯元兄弟」が二人そろって成し遂げる!