5月1~2日にエジプト・アレクサンドリアで行われた2026年アフリカ選手権の男子フリースタイル57kg級で、幼少の頃にチンパンジーに襲われ、顔に大けがをしながら不屈の精神で優勝を勝ち取った選手が注目を浴びた。
ドゥニア・シボマナ(コンゴ民主共和国)は6歳のとき、ヴィルンガ国立公園で兄と従兄弟と遊んでいた最中、チンパンジーの集団に襲われた。兄と従兄弟は命を落とし、シボマナはかろうじて命を取りとめたものの、上唇と下唇、顔面筋の大部分、そして頬の一部を失い、右耳の一部は噛みちぎられ、左手中指も噛み傷で失った。
「初めて自分の顔を見たときはショックでした。罵倒され、ひどい扱いを受けました」。同年代の仲間や地域社会から完全に孤立し、母親は亡くなり、父親は失業していたため、路上生活を余儀なくされた。
だが2年後、国立公園の最高責任者のつてで米国へ渡り、非営利団体「スマイル・レスキュー・ファンド・フォー・キッズ」(資源の乏しい国々で顔面や頭蓋骨の手術を必要とする子どもたちに無償で手術を行っている)の尽力で治療を開始。14回に及ぶ手術を受けた。医師たちは唇の再建と顔の基本的な機能の回復を目指し、組織や筋肉を丹念に移植。手術は毎回が新たな闘いであり、回復のたびに忍耐力が試されることになった。
当時、スワヒリ語しか話せず、里親家庭で新しい生活に順応しようとしたが、外見のせいで差別され、「悪口を言われたり、ひどい扱いを受けたりしました」と、辛い時期もあったという。人生が変わり始めたのは、レスリングとの出合いだった。
ロングビーチ高校レスリング部のアシスタントコーチ、ミゲル・ロドリゲスとその妻マリッサに勧められたレスリングで才能を発揮。中学2年生のとき(2022年)にニューヨーク州高校選手権に出場する資格を獲得し、見事に優勝。ロングビーチ高校でも着実に実力を伸ばしていった。
当初は単なる世話だったロドリゲス夫妻との関係は、やがて深い愛情へと発展し、養子となり、安定した生活だけでなく、2019年には米国の永住権を取得。
長年の苦難を通して培われた彼の強い意志は、決して諦めない原動力となった。今年3月、2度目の州高校王者に輝き、母国の代表としてU20とシニアのアフリカ選手権に出場。U20で4試合を勝ち抜いて優勝。シニアでも3試合を勝ち抜いてアフリカ王者へ輝いた。コンゴ民主共和国からは、初のシニア・アフリカ・チャンピオン。
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今秋には、奨学金を得てノースカロライナ大学に進学予定。スポーツの枠を超えた感動的な物語を背負い、米国レスリング界と世界レスリング界での飛躍を目指す。
シボマナは「アイデンティティ(自分らしさ)は自ら築き上げるものだ。他人に自分の存在を決めさせてはいけない。自分の物語は自分でつくるべきだ」という信念を胸に、前向きに生きる姿勢。“母”マリッサさんは「私は彼をヒーローだと思っています。チャンピオンです。多くの逆境を乗り越えてきた人です。ファイターであり、サバイバーだと思っています。奇跡を起こした人です」と、その強さを賞賛している。