【ビシュケク(キルギス)】前日の1回戦でアフタンディル・タアライベクウル(キルギス)に3-4のスコアで惜敗。昨年のフリースタイルに続く優勝がなくなった男子グレコローマン63kg級の田南部魁星(ミキハウス)が、3位決定戦で昨年の世界選手権7位のアザチャン・アチロフ(トルクメニスタン)に快勝して銅メダルを獲得。アジア選手権での両スタイル・メダル獲得を成し遂げた。
グレコローマンで初の国際大会でのメダル獲得にもかかわらず、田南部は「やはり、両方金メダルで『うれしいです』と言いたかった」と無念そうな表情。前日の1回戦は、0-4から追い上げたものの、1点差での惜敗。その選手が地元の大声援を受けて勝ち上がり、決勝でイラン選手を破って優勝。実力差は感じられないスコアだっただけに、「今日のような試合を昨日やればよかった、という後悔もあります」と、両スタイル制覇への思いがつのったようだ。
1回戦で負けた後、「フリースタイルで長いこと考えてきた組み立てとは、全く違う攻撃をしなければならない」「外国選手は日本選手にはない力強さ、瞬発力も感じました」と話し、日本でのグレコローマンとは違う外国選手の強さを口にしていた。
「安全圏」と表現した距離も口にした。どんなに体力のある選手でも、100メートル走のような動きで6分間を闘い抜くことはできない。やる必要もない。距離をとって、一瞬であっても“休む”ことが必要。外国選手とのグレコローマンでは、安全圏の距離がどこにあるか分からず、常に体に力が入っている状態。国際舞台でのキャリアのなさが出てしまった。
ありきたりの言葉だが、初めて国際舞台でのグレコローマンを経験し、今後に生かす収穫があったことは間違いあるまい。
メダル獲得にあたり、初戦で負けたあと、先輩から励ましのメッセージをもらったことにも感謝。LINEによって世界が急速に狭くなっており、以前ではありえなかった応援を受けられたのも、メダル獲得の大きな原動力だった。
日本では長いこと、キャリアの浅いうちは両スタイルに挑むが、全日本レベルになると、どちらかに絞るのが普通だった。フリースタイルに生かすためグレコローマンの試合にも出場する選手はいたが、本格的に両スタイルに挑む選手はいなかった。「二兎を追う者は一兎も得ず」という理由なのか、両スタイルで全日本選手権にはエントリーできないと思われていたのかは不明だが、投打をこなす大谷翔平は出現しなかった。
その壁に挑んだのが、フリースタイルで世界王者になった直後にグレコローマンの世界王者を宣言した成國大志(現筒井メディカルグループ)であり、学生の大会で頻繁に両スタイルに挑んだ田南部だ。
田南部の場合は、千葉・日体大柏高時代に全国高校生グレコローマン選手権に出場して3位に入賞するなど、両スタイルでまずまずの成績(ただ、JOC杯カデット以外、高校の大会での全国優勝はなかった遅咲き選手だった)。日体大では、松本慎吾監督の「同じレスリングだ。両スタイルに挑め」という方針のもと、グレコローマンにも積極的に出場。東日本学生の新人選手権や選手権に出場して優勝の結果も残し、2023年の全日本選手権で両スタイル出場を果たし、現在に至っている。
欧米は両スタイルに接点がないことが多い。強豪国の中で両スタイルに挑む選手が出現する可能性があるのは、現段階では日本くらいではないか。だが、外国に合わせる必要はなく、日本のよさを貫き、「日本が世界のレスリングを引っ張っていく。新たな歴史をつくる」でいい。米大リーグの歴史を塗り替えたのは、日本人だ。
「見ている人が『面白い』と言ってくれる限りは続けたい」と話す田南部は、明治杯全日本選手権(5月21~24日、東京・駒沢体育館)での両スタイル出場を宣言。世界選手権での両スタイル同時出場に挑む。
大谷翔平が野球ファン以外からも応援されるのは、不可能と言われたことに挑み続けていることが大きいだろう。前人未踏の領域に挑戦する姿には、多くの人が尊敬し、あこがれ、応援する。田南部の両スタイル・メダル獲得の快挙は、後に続く選手の指針になることは間違いない。