(文・撮影=布施鋼治)
昨年10月、U23世界選手権の男子フリースタイル97㎏級で優勝。全世代を合わせ日本史上最重量級の世界チャンピオンとなった吉田アラシ(日大)が3月1日付けで三恵海運株式会社に入社した。
「今までの立場は学生でアマチュア。お金はもらっていなかったので、そんなに勝ち負けは気にしなかった。今後は社会人として今まで以上に結果が求められるので、責任は重いのかなと思います」
入社の決め手は兄・アミンとケイワンが同社の社員として競技活動を続けていることが大きい。「やっぱり家族ぐるみでお世話になっていますからね。兄にも薦められました。父が運営する市川コシティ・レスリングクラブも(三恵海運から)サポートを受けていますし」
アラシはすでに日大の寮を引き払い、寮の1階にある日大レスリング道場に自転車で通えるところに新居を借りた。
「ひとり暮らしは初めてだけど、両親や兄にも相談できるので、特に心配はしていません」
食事の方は今まで通りで、寮で朝食と夕食をとれる段取りになっているという。
「日大の寮の食事は同じメニューが出てこない。いろいろな食材を使ってくれているので飽きない。『ああ、今日もまたこれか』という残念な気持ちになるのではなく、『今日は何が出るんだろう?』と期待をもてる」
現在の体重は100~101㎏程度なので、試合が決まっても極端に食事制限をすることはない。もっともアラシは「自分はそんなにガツガツと食べる方ではない」と認めるほど、ふだんの食事の量は一般人とさして変わらない。「だからコロナで自宅待機になったときには、お父さんにイランの羊肉を使った料理とかをたくさん食べさせられました(笑)」
毎週金曜に日大道場に顔を出す父のジャボ・エスファンジャーニさん(通称ジャボさん)の記憶によれば、花咲徳栄高に入学したとき、アラシの体重は66㎏程度だったという。「入学して秋ごろに声変わりが始まって、急に大きくなった。それで翌年春の全国高校選抜大会のときには92㎏まで上がったんですよ。それで今のアラシになった」
そんな兄の成長スピードを真似るかのように、4月から日大の2年生となる弟・アリヤも急激に大きくなっている。筆者は、アリヤが2022年5月のJOC杯で優勝したとき取材しているが(クリック)、そのときはまだ48㎏級だった。今年は昨年に続いて74㎏級を主戦場に、一階級上の79㎏級で闘う予定もあるという。
「どんどん大きくなっているので、来年は86㎏級に上げるかもしれない」(ジャボさん)
取材時、アリヤは技術練習のため育英大に行っていたので顔を見ることはなかったが、アリヤと双子の妹・ロヤ、そして日大OBであるアミンとケイワンも顔を出していたので、吉田家大集合の様相を呈していた。ジャボさんは「子供たちが成長する姿を見るのはうれしい」と目を細めた。「社会人となるアラシは、三恵海運、日大、協会、家族がサポートする形でロサンゼルス・オリンピックに向かっていく」と言う。
直近の試合として4月にアジア選手権(キルギス)を控えるが、アラシにとっても吉田家にとっても今年最大の目標は9月に名古屋で開催されるアジア大会での優勝だ。
「今は、とりあえず名古屋に向かって練習しています。そのため明治杯(全日本選抜選手権)でもしっかり勝ってアジア大会の切符をつかみたい」
そんな息子の少しでも力になるよう、ジャボさんは自宅で羊肉を調理したイラン料理を持参し、子供たちに配っていた。父の手料理でも栄養を補強しつつ、アラシはやる気をみなぎらせる。
「アジア選手権で気をつけるのはバーレーンのアフメド・タジュディノフ(パリ・オリンピック王者)。イランはアミーラリ・アザルピラ(パリ・オリンピック3位)かハッサン・ヤズダニチャラティ(パリ・オリンピック86㎏級2位)のどちらかが出てくるでしょうね」
昨年9月の世界選手権でアラシは、パリ・オリンピック2位のギビ・マチャラシビリ(ジョージア)を破り、銅メダルを獲得した。ホップ、ステップ、ジャンプ。今年の初戦となるアジア選手権を制し、社会人レスラーとして好スタートを切れるか。