2026.01.11

2026年世界レスリング界の注目(6)…“オリンピック”でビーチを初実施、世界的普及が進むか

 世界レスリング連盟(UWW)は昨年9月、クロアチア・ザグレブでの世界選手権と並行して開催されたカンファレンスで、ビーチ・レスリング総合格闘技(MMA)の振興を目指すことを確認した。今年11月にセネガルで行われる「ユース・オリンピック」では、当初の予定を変更して男女のビーチ・レスリングのみを実施(関連記事)。“オリンピック”で初めてビーチが実施されることは、UWWのビーチ普及に対する並々ならぬ姿勢と言えよう。

▲アフリカで初の“オリンピック”開催となる2026年ユース大会。ビーチ・レスリングのオリンピック・デビューとなる=公式サイトより

 男子にフリースタイルとグレコローマンの2スタイルがあるため、男女平等を目指す国際オリンピック委員会(IOC)から是正勧告されているのは周知の事実。現在のオリンピック競技の中で、最も男女差の大きい競技がレスリング(2024年パリ・オリンピックでは男子195選手、女子96選手が参加)。“女性のスポーツ”とも言えるアーティスティックスイミング(シンクロ)と新体操との“引き換え”に男子グレコローマンが存在しているのが現状だ。いつまで続くか分からない。

 UWWでは、ビーチ女子をオリンピック種目にすることで、このアンバランスの解消を目指す。ビーチ・レスリングは、レスリングを全く知らない人たちにも分かりやすいルール。レスリングの普及に大きな力になることもあり、その普及はレスリングの普及にもつながる。

ビーチ・レスリングの起源は、レスリングの起源

 ビーチ・レスリングの原型でもある砂や土の上でのレスリングは、古くからアフリカやインドなどで行われていた。モンゴルで人気のモンゴル相撲も草原の上で闘う競技。広い意味で“土の上でのレスリング”と言える。セネガルでのユース・オリンピックにビーチが採用されたのは、同国での伝統レスリングはビーチレスリングに近く、その人気の高さからして、「テレビやソーシャルメディアでも大きな反響が期待できる」という理由だ。

▲1000年以上の歴史があるアフリカの伝統格闘技、砂の上で闘う「ヌバ・レスリング」。国際交流基金文化協力主催事業としてスーダンで指導した砂川航祐氏(現福島・ふたば未来学園高監督)が滞在中に挑んだ=写真提供=在スーダン日本国大使館

 古代オリンピアの花形競技でもあったレスリングは、マットがない時代だったので砂か土の上で実施されていた。すなわち、ビーチ・レスリングの起源はレスリングの起源そのものだ。だが、オリンピック競技を目指して提唱したのは日本だ。バレーボールやサッカーなどビーチスポーツの台頭を受け、日本レスリング協会の福田富昭会長(当時)が取り組み、2004年5月に東京・台場でテスト実施。それを国際レスリング連盟(FILA=現UWW)に提案した。

 FILAは、アテネ・オリンピック期間中の同年8月の総会でビーチ・レスリングを正式なスタイルと認定。これを受け、日本協会は翌2005年7月に茨城・大洗町で第1回全日本ビーチ選手権を開催。オリンピアンやプロレスラーを呼んで華々しく存在をアピール。2006年11月にトルコ・アンタルヤで、第1回世界ビーチ選手権が開催され、FILA副会長でもある福田富昭会長も出席した。

▲2004年5月、東京・台場で行われたビーチ・レスリングのテスト。日本がビーチ・レスリングを世界に提唱した

▲2005年の第1回全日本ビーチ選手権。オリンピアンとプロレスラーを呼んで強烈にアピールした。ビーチレスリング初期の推進国は日本だ=撮影・矢吹建夫

男女格差の是正のため、ビーチの普及が必要

 2010年代中盤からは、オリンピック競技としてのレスリングの存続には男女格差の是正が必要となり、ビーチの世界的普及が強烈に推進された。米国レスリング協会は2028年ロサンゼルス・オリンピックでのビーチ採用を目指したが、これは実現しなかった(関連記事)。

 現在、ビーチは年1回の世界選手権ではなく、年数回の世界ツアーを実施し、選び抜かれた選手がファイナル大会で世界チャンピオンとなるシステムが導入されている。これも世界的普及を目指す方策のひとつ。昨年は、年4回のワールドシリーズ大会とファイナル大会の計5回の“世界大会”が実施された

 その他、大陸選手権などUWWが認定したビーチの国際大会は21大会。「パシフィック・ミニゲームズ」「アジア・ユース大会」といった総合競技大会でも採用された。

 2026年は、まだワールドシリーズの日程が発表されていないが、前述の「ユース・オリンピック」のほか、「アジア・ビーチ大会」(4月、中国)、「世界大学ビーチ大会」(9月、ブラジル)、「コモンウエルス選手権」(12月、南アフリカ)でも実施。世界的普及が進みそう。

▲毎年行われているビーチ・レスリングの世界ツアー。2026年の普及発展が望まれる=UWWサイトより

オリンピック種目入りには「男子50ヶ国、女子35ヶ国」以上が必要

 オリンピック種目になるための条件は、IOC憲章で「男子3大陸50か国以上、女子3大陸35か国以上の実施」と規定されている。国数は必ずしも厳守されているわけではなく、開催国が選択する追加競技では、その国での人気も加味されるが、採用の条件は大まかに下記の通り。

■公式に認められた国際競技連盟(IF)によって統治されており、ドーピング対策などを含めて運営能力に問題がないこと
■男子は3大陸50ヶ国、女子は3大陸35ヶ国以上で広く実施されていること(全国大会の実施が必要。急造選手の国際大会参加では「実施」と認められない)
■世界選手権または大陸選手権が最低2回は実施されていること
■若者へのアピール度や、男女平等の推進がしっかりしていること

 昨年のビーチ・ワールドシリーズの各大会への参加は、男女とも20ヶ国に達していないのが現状。このままではオリンピックでの採用は難しいので、さらなる世界的な普及が必要となる。男子グレコローマンを守るためにも、ビーチの普及促進が望まれる。