(文=編集長・樋口郁夫)
不祥事で2009年秋から1年間、活動停止を余儀なくされた日体大レスリング部で、またも不祥事が起きた。部員が公然わいせつ罪で逮捕され、挙動不審だったことから薬物使用が疑われてレスリング部寮の家宅捜査へ。見つかった菓子(と思われる)に、大麻成分が入っているか否か、違法性があるかどうかなどを慎重に調べているという。
筆者は、この情報は昨年末に入手していた。そのときにまず思ったのは、「ひた隠しにしないでほしい」ということ。これは、家宅捜査された事実をすぐに日本レスリング協会に報告したことが分かり、まず安心した。これで最悪の事態は免れたと言えよう。
公然わいせつ罪については言い逃れができないが、摂取した薬物が大麻そのものなのか大麻成分なのか、違法なのか違法ではないのか、違法だった場合、それを認識していたのか合法と思っていたのか、などが焦点になる。
マスコミは、最近の学生スポーツ界を騒がせている「大麻」「違法薬物」という言葉を使って報じているが、現段階で、まだ結論は出ていない。記事には「~の可能性も」という表現を使い、そうでなかった場合の“逃げ道”をつくるのがマスコミの常とう手段。昨年5月の山梨学院大の出来事でも、警察の捜査の結果、「違法性、事件性はない」との結論が出ているので(関連記事)、決めつけずに結果を待つべきだろう。
年が明けてSNSで報じられるようになると、3ヶ月とか無期とかの「謹慎が下った」という情報も耳にした。大麻かどうかの結論も出ていないのに処分が下るというのもおかしな話。その情報源に「どこが下したのか?」と聞いてみると、答が返ってこない。この種の事件は偽情報が出回り、尾ひれがつくもの。とにかく、うわさは信じないことだ。
処分を下すとしたら、まず大学であり、加盟している東日本学生レスリング連盟だろう。ひとつ強く訴えたい。連帯責任でチームを活動停止にすることだけは絶対にやめてほしい、ということ。報道を見聞きする限り、公然わいせつ罪は明白のようだが、寮で大麻を栽培していたという部をあげての犯罪ではない。
チームを活動停止処分にするなら、何の罪もない選手が練習環境や遠征機会を奪われてしまう。今どき、こんな理不尽で時代錯誤の話はない。
思い出すのは、2009年9月の同大学の不祥事におけるチーム全選手への対外活動の無期限禁止処分だ。自主練習までは禁止しなかったが(最大で何人まで、とかの規制はあったと記憶している)、犯罪に一切関わっていなかった部員(つまり1人以外の全員)に、チーム練習と大会への出場を禁止するもので、その厳しい連帯責任に、報道陣から「集団ではなく、全くの個人の犯罪に対し、ここまできつい連帯責任はいかがなものか」との質問が出たほど。
東日本学生レスリング連盟は大学の処分を評価し、日体大の処分を追認。日本レスリング協会も同様で、大学からの「翌春に入学する部員には出場を認めてほしい」という希望も、「日体大という所属になる以上、出場は認めない。責任ということではなく、組織として同一行動をとってほしい」と突っぱねた。
こうした事例があるだけに、「今度も」との懸念が浮かんだ。何の罪もない部員が、練習する権利を奪われることがあってはならない。連帯責任を肯定する人は「個人ではなく、部として活動している」「不祥事の抑止効果」などと口にするだろう。
部としての活動・一体感とは、犯罪にかかわっていない選手の活動を禁止してまで貫くものだろうか。必死に打ち込んでいる選手のスポーツをする権利を奪ってまでもやるべきことだろうか。
不祥事を起こせば周囲に迷惑がかかることを知ってもらうことで、以後の不祥事を抑制する、という理論も、よく分からない。チームメートが不祥事を起こせば、その選手の親やキッズ・高校時代の恩師などが泣いて悲しむことに直に接する。それを知ることで、十分に抑止効果はあると思う。
かつてスポーツ界における連帯責任の権化だった高校野球(1970年代までは、野球部員以外の不祥事でも甲子園出場が取り消された)で、それがなくなったのは30年以上も前の話。現在は、昨夏の広陵高校のように社会的圧力で学校が自主辞退したケースはあるが、全国高校野球連盟は「ひた隠しにすること」を最大の悪と定義づける。これには厳しい処分を下すが、そうでなければ、部内暴力であっても当事者のみを処分するようになっている。
高校サッカーでもそうだ。「構造的いじめ」を理由に出場停止処分が下ったり、辞退した高校はあるが、この冬の全国大会では、部員数人の飲酒問題が明るみに出た大阪・興国高校が当該部員たちを除くメンバーで出場した。学校は部員への徹底した聴取の結果、飲酒に関わった部員以外に重大な問題行為がないことを確認し、「罪のない他の部員たちから努力の機会を奪うべきではない」との判断を下した。
こうしたケースでは、必ず「~のチームに出場の資格があるのか」という声が起こる。興国高校の決断はSNSで活発な議論を引き起こしたが、支持する声が圧倒的。「個人の責任は個人が負う」「無関係の部員の努力を尊重する」という、現代の指針を示すものとして評価された。
今回の事件の処分が下るのは、警察が調べている菓子にどんな成分が入っていたかが明らかになってからだろう。日体大、東日本学生レスリング連盟、日本レスリング協会に望むのは、時代の流れに沿った処分をしてほしいこと。すなわち連帯責任は絶対にやめてほしいこと。
最近でも、記事にはしなかった小さな不祥事はいくつかあった。そこでよく出てくる言葉は「前例に従う」「処分した過去のチームや選手に示しがつかない」という言葉。必死に頑張っている選手の努力を踏みにじってまで前例にこだわる必要があるのか? 処分した過去のチームや選手が「オレ達のときより軽い」などと抗議してくるものだろうか。
そんなカビの生えた理論を言っている限り、オリンピックで金メダル8個も取っても、時代の流れに乗れずマイナーな存在から脱却できないだろう。上に立つ人間に必要なことは、時代の流れを敏感に感じ取る感性。前例より時代の流れ。もう、連帯責任の時代ではない!
最後に、大学スポーツ協会(UNIVAS)の定めている「大学スポーツ不祥事対応に係る手引書」から、連帯責任についての記述をいくつか抜き出してみたい。
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「運動部における不祥事に対する処分の留意点」
学生が個人的に起こした不祥事について、原則として当該学生のみが責任を負うべきであり、当該学生が所属する部活動全体や他の部員に対する連帯責任に基づく処分には慎重になるべきである。
また、大学が運動部に対して部活動を自粛するように申し入れる例もみられるが、実質的に当該自粛が大学側からの処分と同視できる場合には、上記のような適正な手続に則り処分がされる必要がある。
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「関係者に対する処分」
・適正手続に則った処分を行う。
・事案に応じた適切な処分を行う。(悪質性、重大性、動機経緯を中心に他の同種事案との均衡なども考慮)
・連帯責任に基づく処分や、処分と同視し得る自粛要請には留意を要する。
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「処分の根拠と連帯責任」
何人もスポーツ権を有しており、これを制約する効果を持つ処分には、その制約を正当化するだけの根拠が必要である。そして、違反行為をした個人に対して、当該違反行為の責任に見合った処分を課すことが正当化されることに異論はないだろう。
(中略)
したがって、競技者個人に違反行為があった場合の責任は、原則としてその行為を行った個人のみが負うべきであり、運動部全体に対する処分が許されるのは、処分をすることで将来の違反行為を未然に防ぐ必要性が特に認められるなどの特段の事情がある例外的な場面に限られるべきである。
大学としては、連帯責任を課す場合には、安易に当該個人が所属する運動部全体に対して、部活動停止等の重い処分を課すことで違反行為に関与していない他の競技者等のスポーツ権を不当に制約することがないように留意する必要がある。
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