2025.12.11

【2025年西日本学生秋季リーグ戦・特集】7季連続2位を経て、ようやく到達した優勝! 勝利の女神は、近大にドラマチックなフィナーレをプレゼント

 1949(昭和24)年創部という伝統チームの近大と、1995年創部で比較的歴史の浅い立命館大による初の決勝となった2025年西日本学生秋季リーグ戦。近大が最終試合で逆転勝ちし、1997年春季以来、28年ぶりの栄冠を手にした

▲28年ぶりの優勝を達成した近大

 劇的な逆転優勝に沸き立つ近大陣営。28年の間、コーチから監督を続け、現在は後進にバトンタッチした萩原理実部長が顔をくしゃくしゃにして長尾明来士監督、兄の長尾武沙士コーチ、有元伸悟コーチらと抱き合った。

 28年、55大会ぶりの優勝もさることながら、2022年春季から今年春季まで7季連続で決勝進出を果たしながら、いずれも敗れ、8季連続2位の可能性もただよったムードの中での逆転優勝。勝利の女神は、最後まであきらめなかった近大を見捨てることなく、最高にドラマチックなフィナーレをプレゼントした。

「選手たちを心から誇りに思っています」…萩原理実部長

 萩原部長は「監督の間(一昨年まで)は一度も優勝できなかったんです。準優勝が続いて…。今年はチームの雰囲気が違ったんです」と振り返る。優勝が決まり、胴上げを受け、数分がたっていたが、それでも声は震えており、言葉は途切れ途切れ。「二部降格も経験し、そこからここまで来られたことを思うと、感慨深いものがあります。選手たちを心から誇りに思っています」と言う。

 28年間のつらかったことを、時間をかけて根掘り葉掘り聞いたら、涙がほほを伝わって崩れ落ちたのではないか、と思われるほどの表情。「監督としてこの感激を味わいたかったお気持ちは?」との問いに、「まったくありません。ずっと一緒にやってきました。4人(自分、監督、コーチ2人)でチームを指導してきましたから」と即答した。人生で初めて受けた胴上げは「宙に舞うというのは、あんなにも爽快なものなのですね。春に、もう一度味わいたい」と振り返った。

▲優勝直後、萩原理実部長(左)、長尾明来士監督(背中)、有元伸悟コーチ(向こう側)、長尾武沙士コーチ(右)と抱き合って喜んだ

 今大会はレギュラー選手2人がけがをして欠場となり、1、2年生の布陣で臨んだ。それでも「いけるような気がしました」と振り返るほどチームに向上心が感じられたと言う。予選リーグの周南公立大と試合の125kg級で、田中俊光(1年)が格上の選手にフォール勝ちして勢いをつけ、その流れが決勝に続いたと見ている。

 決勝で、3連勝3連敗を受けての最後の試合は「勝ってくれると信じていた気持ちと、また2位か、という気持ちが半々でした」と言う。チームの期待を背負ってマットに上がった由井廉太郎(2年)は楽しくレスリングをやっている選手で、「緊張感は感じられなかった。(1-6と)リードされたときも、大丈夫だ、という気持ちの方が大きかった」と振り返った。

 レスリングが好き、というのは萩原部長も同じ。59歳にしてマットで汗を流し、全日本マスターズ選手権に出場している(今年1月の大会も3位入賞)。「選手の足を引っ張らないように」と気をつけているが、部長のレスリングを楽しむ姿が選手に刺激を与え、レスリングが好きな選手の集まるチームになっているのだろう。押しつけの練習ではないチームは、必ず伸びるという好例だ。

キッズ時代から競っていた京都生まれの両者が最終試合で対戦

 試合は近大が3連勝したあと、立命館大が3連勝。雌雄決する最終試合(57kg級)は、立命館大の池田徹平(1年=京都・日星高卒)が由井(前述=京都・京都八幡高卒)を相手に第2ピリオド途中で6-1とリード。

▲優勝への希望を持って由井を送り出す長尾明来士監督(左)と有元伸悟コーチ

 ともに京都府でキッズ時代からレスリングをやっていた両者は、今年5月の西日本学生春季リーグ戦で由井が勝ったが、7月の西日本学生新人選手権決勝では池田が4-1で勝利。今回、3連敗から3連勝と流れをつかんでいたことで、会場にいた多くの人は、数分後には立命館大が歓喜に包まれるシーンを予想したのではないか。

 歓喜に包まれたのは近大陣営だった。由井の気持ちは、まだ切れていなかった。場外ポイントで2-6へ追い上げ、タックルとローリングでラスト1分に6-6へ。ビッグポイントの差で、まだ池田が有利だが、勢いのついた由井の攻撃は止まらない。タックルを決めて4点を加え、10-6のスコアで終了のホイッスルを聞いた。

 由井は最終試合に臨むにあたり、チームメートから、今や強運の持ち主に対する“スポーツ用語”となっている「持ってるぞ!」と言われてマットに上がった。勝てばチームの英雄。「緊張する方ではない」と自己分析するだけに、あがることはなく、「やるしかない。期待にこたえたい」という気持ちだったと言う。

▲勝敗の分かれ目になったと思われる1-6からの場外ポイント。由井の攻撃精神に火がつき、最後に実を結んだ

「ボクの前に勝ってくれた選手がいたからの優勝です」…由井廉太郎

 相手の池田とはキッズ~中学時代は一度も勝てず、高校に進んでからの対戦は逆に全勝。今年の春季リーグ戦でも勝ったが、6月には負けているので(前述)、「今度は絶対に勝つ」と気合を入れての一戦だった。

 1-6とリードされたときは、さすがに少し焦りが出てきたそうだが、場外ポイントで1点を返したことと、相手が守りの動きになっていたことが感じられたので、「行くしかない」という気持ちへ。10-6としてラスト37秒になっても、お互いに手の内を知っているので「最後まで気は抜けなかった」と言う。

 勝った直後、萩原部長の大喜びしている姿が目に飛び込んできた。「期待にこたえられて、うれしかった」と言う。「チームの英雄になったね」との問いに、「いえ。ボクの前に勝ってくれた選手がいたからの優勝です。チームのみんなの力で勝ちました」ときっぱり。

 進学にあたって近大を選んだのは、高校時代に何度か練習に参加させてもらい、監督やコーチの指導が合っていると感じ、チームの雰囲気がよかったことが理由。「近大に来て、本当によかったです」という言葉に実感がこもった。

▲値千金の勝利を挙げた由井を、万感の思いで迎え入れた萩原理実部長(左)と長尾武沙士コーチ

「楽しむためには、強くなって勝つことが大事」…長尾明来士監督

 長尾明来士監督は「(昨年季まで)7季連続準優勝。届かなかったところにたどり着けた。去年までの選手も含めてチームを支えてくれた選手に感謝の気持ちでいっぱいです」と言う。決勝は、お互いの戦力を分析して3勝3敗の最後で勝負というケースも想定していたと言う。由井が5点をつけられたときは、「やばい! またか、と思いました」と苦笑いするが、今年のチームの選手はあきらめることなく闘う選手が多いので、監督の気持ちの中にも期待が消えることはなかった。

 監督はキッズ・レスリングの強豪・吹田市民教室でレスリングを始め、2004年全国中学生選手権で、近大附高時代には全国高校選抜大会で優勝。近大時代にも西日本学生王者に輝いている。しかし、団体優勝は一度も経験がなかった。最近、優勝を目指すムードが高まり、目指す気持ちが強くなったと言う。

▲1年間、チームを支えた満永大翔主将の胴上げ

▲同じくチームを支えた安田 彪摩副主将の胴上げ

 部長と同じで、胴上げは初の経験。「めっちゃ気持ちよかったです」と振り返った。個人優勝と団体優勝は感激が違うが、2位と1位も大きく違うことを経験したリーグ戦優勝。選手には「レスリングを楽しんでくれ」と言っているそうだが、「楽しむためには、強くなって勝つことが大事。今回の優勝で、みんなレスリングをさらに好きになってくれたと思います。好きになって頑張ってほしい」と、今後の健闘を誓った。
 
 萩原部長は「この優勝がまぐれだったと思われないよう、来年春も勝つことが大切」と、次の目標を見据える一方、支援してくれた人たちへの感謝も忘れない。「いい選手を推薦してくださる高校の先生方、大学、ご父母、OB、近大クラブなど、日頃から支えてくださっているすべての皆さまに、あらためて感謝します」と話し、監督・コーチとともに「しっかりと育てます。私は、その成長をそばで見守らせていただきます」と結んだ。