--移動日が違ったし、調整も別ですけど、現地で顔を合わせたことは?
青柳 けっこう会いました。「がんばろうね」と話したりしました。
石井 青柳選手の決勝を会場で見て、とても刺激になり、クリナップに流れが来ていると感じました。私のセコンドは、前田翔吾コーチ(クリナップ監督)で、クリナップ一丸となって頑張るぞ、という気持ちになりました。
--青柳選手は、世界選手権のあとも国民スポーツ大会とU23世界選手権に出ています。継続して試合に出ないと物足りないくらいの気持ちなのでしょうか?
青柳 若いうちにしかできないことがあると思います。試合に出るために練習しているので、出られる大会には極力出ようと思います。そうでないと、試合勘や、試合特有の場外際の攻防という面を経験できないと思います。オリンピックに行けるかどうかは、そうしたわずかな部分の差だと思います。経験を積んでおくほど、そうした状況になったときに有利になると思います。
--負けを恐れずに挑む、という精神ですね。
青柳 負けるのも経験だと思います。負けたら負けたで課題も出ます。負けても気にしないで次を考えるタイプなんです。考えるのがけっこう好きなので、試合に出場することを大事にしています。
--石井選手は、世界選手権のあと大会出場なしで全日本選手権へ挑むことになりますね。
石井 試合間隔が空くと言っても、約3ヶ月です。そのくらいの間隔なら、準備にかける時間と考えれば問題ないと思っています。
--青柳選手は、これからオリンピック階級(74kg級)でやっていくわけで、大きな困難に直面すると思います。意気込みは?
青柳 今までにも多くの壁がありました。乗り越えられてきたので、自分のペースで乗り越えていこうと思っています。
--今後も同じ階級でやる石井選手の場合も、65kg級世界チャンピオン(森川美和)が上がってくるでしょうし、一段と厳しさが増すと思います。
石井 全日本選手権はアジア大会の予選を兼ねているので、多くの選手が集まると思います(注=アジア大会はオリンピック階級のみ実施)。追われる立場になったと思いますけど、ロサンゼルス・オリンピックの金メダルを目指す立場でもあります。追われることを意識するのではなく、前を向いてトップを独走するという気持ちでやりたい。
--チャンピオンは、よく「チャレンジャーの気持ちで頑張ります」と言いますが、心底からその気持ちになり切れるものでしょうか?
石井 確かに、チャレンジャーになり切れないチャンピオンもいると思います。自分は、いつもテクニカルスペリオリティで相手を倒す、という気持ちで闘っています。そう思うことで挑む気持ちになれます。ロサンゼルスでチャンピオンになるまで、全試合をテクニカルスペリオリティで勝つという挑戦を続けていきたいと思います。
青柳 自分はよく負けるので、ずっとチャレンジャーです。70kg級は非オリンピック階級だったので、甘えていた部分がありました。74kg級に挑戦できることがうれしい。
石井 パリ代表を逃したのは、「勝たなければならない」という気持ちになってしまったからかな、と思います。間違っていないとは思いますけど、ロサンゼルスへ向けては、一生に一回の挑戦なので「楽しむ」という気持ちでいたい。
--目標としている選手は?
青柳 目標としているというか、参考としてきた選手は乙黒拓斗さん(自衛隊)で、タックルに入るきっかけの作り方とかを目指してきました。教えてもらったわけではないし、見様見真似でできるものではありませんが、真似していたら、自分のレスリングの組み立てに役に立ちました。
石井 尊敬している選手はけっこういます。年下の選手ですけど、藤波朱理選手や小野正之助選手、育英大の後輩の本名帝心選手とか。レスリングに対する姿勢やメンタリティーとか尊敬しています。
--レスリング選手として絶対に譲れない美学や信念は?
青柳 試合のときに相手を「ぶっ倒す」「ぶっ殺す」くらいの気持ちを持っている選手もいるみたいですけど、自分はそんなタイプではなく、自分のできる最大限の技術を出そう、と思っています。熱くなるのではなく、考えてやるレスリングを崩したくない。
石井 勇気をもって楽しむことを大事にしたい。勝たないといけない場面になると周囲が見えなくなるときもありますけど、なんでレスリングをやっているかと言えば、レスリングが楽しいから。レスリングに抱いている感情を、どんなときでも出したい。「こんなときに楽しんでいいのか」ではなく、楽しむことで勝ちにつながると思います。
--クリナップを選んだ経緯と、社会人選手としての意識をお聞かせください。
青柳 大学を卒業してもレスリングを続けたいと思い、強くしてくれた山梨学院大で引き続き練習することが希望でした。大学の先輩にクリナップの選手がいまして、練習環境などを聞いて希望と合い、ここに行けば強くなれると思い、お世話になることになりました。
石井 育英大の柳川美麿監督とクリナップの前田監督の関係から、クリナップを紹介いただきました。練習拠点を群馬に残したままロサンゼルスを目指すことができる環境であり、入社させていただくことになりました。
青柳 クリナップに入社してから強くなれたのは、結果を出さなければならない、という気持ちと自覚があったからだと思います。
石井 レスリングは私の仕事、という気持ちは持っています。学生時代は、やりたいからやっていたのが、今は結果を出すのが役割だと思っています。
--サッカーを見ても分かる通り、企業スポーツの繁栄とその競技の発展は比例していると思います。そのことの意識は?
青柳 レスリングの発展のため、自分を使ってもらうことはいっこうに構いません。キッズの指導も積極的にやりたいと思っています。レスリング界ではそこそこの知名度ができたと思いますので、レスリングの発展のために貢献したいという気持ちはあります。
--企業アスリートとしての自覚ですね。
青柳 それに伴う結果が、やっとついてきたかな、と思います。
石井 スポンサー企業広告の全くない内輪だけの全日本選手権は考えられないし、盛り上がりがないと思います。企業のサポートを通じてレスリングが一般社会に浸透していくのではないでしょうか。企業サポートによって財政の充実があれば、レスリングの発展につながる思います。
青柳 会社の中では、同期入社の人と別な仕事をしているわけですが、ひとつのことに専念し、頑張ったら成果を出せることを伝えられるのなら、すごくうれしいです。会場に応援に来てもらえるだけの結果を残したい。
石井 約1週間の新人研修には出て、同期入社の人と会っています。仕事内容は別でも同じ立ち位置にいると思っていて、会社の業務をしている姿は尊敬しています。この前も同期の人に会ってきましたけど、すごく刺激をもらいました。同時に、チャンピオンベルトを見てもらって、お互いに刺激を与え合っている関係になっていると思います。
--日本選手が海外のプロイベントに出場する機会が増えています。学生は授業があって厳しいかもしれませんが、今の立場的には積極的に海外の大会に出てクリナップ選手の存在をアピールすることもできるのではないでしょうか?
青柳 出場できる大会には出場したいです。いろんな話があります。会社とも相談して決めることですし、あちこちの大会に出るわけには行きませんが、チャンスとタイミングが合えば、そうした機会に挑戦したいです。
石井 出てみたいと思う一方、ロシア(注=11月に須﨑優衣、尾﨑野乃香が出場)の大会では、クリナップの宣伝はできないでしょう(笑)。日本でそういうイベントがあればな、と思っています。思うだけなら、できますので(笑)。
《完》