男子フリースタイルでは山梨学院大と日体大の2強が席巻している大学レスリング界。その状況を打破すべく、多くのチームが団結して実力アップをはかっている。
今月の全日本大学選手権で2選手が優勝し、大学対抗得点で3位に入った日大のレスリング場に11月21日、多くのチームの選手が集まり、熱気ある練習が行われた。参加したのは、日大OBの藤本健太監督率いる三恵海運、同社の鈴木貫太郎コーチが指揮する帝塚山大、西日本の頂点の奪還を目指す立命館大、東京・自由ヶ丘学園高、岐阜・大垣日大高の選手たち。
加えて、OBでパリ・オリンピック・サモア代表の赤澤岳が来日して練習に加わっており、東日本大学リーグ戦出場を2日後に控える女子には、出産を経て復帰した恒村友香子(サントリー)とOGの今井佑海(自衛隊)が参加し、大会前の調整に協力した。
日大の重量級には、97kg級でシニア世界選手権3位の吉田アラシを筆頭に強豪がそろい、層の厚さは他大学を上回る。そこに、全日本選抜選手権86kg級2位で国民スポーツ大会97kg級優勝の髙橋夢大(三恵海運)、全国社会人オープン選手権97kg級優勝の吉田ケイワン(同)、125kg級で高校のタイトルを総なめにしU20世界選手権代表でもあるリボウィッツ和青(東京・自由ヶ丘学園高)が加わってのスパーリングは、日本重量級のさらなる飛躍を感じさせる迫力。
74kg級で大学王者に輝いた吉田アリヤ(日大)と同級で全国社会人オープン選手権2位の吉田アミン(三恵海運)も参加。吉田4兄弟のそろい踏みに、千葉・市川コシティで4人を育てた父のジャボ・エスファンジャーニさんも姿を見せ、父親ならでは厳しいアドバイスを送るシーンも。約2時間の練習は熱気に包まれていた。
日大レスリング場は東京・世田谷区にあり、大学では数少ない東京23区内の道場。利便のよさもあって多くのチームが練習参加を求めてくる。齊藤将士監督は「学生の意思を確かめてからにしていますが、基本的に練習参加の申し込みは受けます」との方針を掲げ、2面マットは他チームの選手であふれていることがよくある。
躍進する慶大の学生トップ選手が参加することもある。高校・大学だけでなく、今回の三恵海運のように世界選手権代表を目指す選手の参加も珍しくなく、「日大の選手にとっていい刺激になっています。ありがたい限りです」と歓迎する。
以前は、ライバル意識のほか、“政治的事情”で交わらないチーム関係があったのは事実。高校選手が大学に練習に行くとしたら、監督の出身大学か、その大学のOBが監督のチームが普通だった。その“所属意識”が団結となり、強さにつながった一面があるのだろうが、時代は変わっていて、若い指導者の間に所属間の垣根はない。
“チーム・ジャパン”として全体のレベルアップを目指しているのであり、個々の活動、はっきり書くなら「派閥争い」になっては逆の結果になることを知っている。東西の大学と高校の強豪チームが団結しての練習は、大学レスリング界を変えていくことだろう。
齊藤監督は1年間のコーチを経て、昨年4月から日大を指揮。1年半を超え「ベースができた段階」と振り返る。来年は高校の重量級を席巻した2選手が入ってくる予定で、重量級の厚みがいっそう増すだけでなく、軽量級にも全国王者が加入する。ここ数年の壁だった団体2位以上に向けて大きく前進しそうだ。
日体大OB(髙橋夢大、長谷川敏裕)を含めて所属4選手を参加させた三恵海運の藤本監督は「日大には、所属選手にとっていい練習相手となる選手がたくさんいる。いい練習ができました」と振り返る。全選手が日大で練習するのは初めてとのことで、「団結心ができるし、新鮮味があった。気持ちを新たにして全日本選手権に向かえると思います」と、合同練習の効果を話した。
西日本学生リーグ戦の一部リーグ定着を目指す帝塚山大の鈴木監督は「選手から『日大に行きたい』と言ってきて実現させました。選手が意欲的になってきました」と説明する。日大の選手とは、パワーも技術も差があると言うが、「ひるまないで、前へ、前へと出て行く姿勢がありました」と振り返り、選手の前向きな姿勢が頼もしそうだった。
来年こそは、大学レスリング界に“戦国時代”が訪れるか。