2025.11.12NEW

【2025年全日本大学選手権・特集】8点差を残り45秒で逆転! 相手のスタミナ切れを見逃さずに優勝を引き寄せる…92kg級・本橋知大(拓大)

 2025年全日本大学選手権の92kg級決勝、本橋知大(ちひろ=拓大)藤田龍星(日大)の一戦は、お互いに4点技が出てポイントを取り合う展開となり、最後に手が上がったのは、一時8点をリードされてしまった本橋だった。

 そこから反撃し、ラスト45秒にポイントを逆転した本橋は試合直後、「ヤッター、という気持ちです。学生のうちにタイトルを取れたことが、うれしいです」と、興奮さめやらぬ表情で話した。今年7月の東日本学生選手権での優勝はあるが、全国レベルでは京都・丹後緑風高時代からを通じて初の優勝。昨年のこの大会(86kg級)の2位をはね返す逆転優勝だけに、喜びもひとしおと言ったところ。

▲京都・丹後緑風高時代は全国大会ベスト8が最高の本橋知大(拓大)。大学王者に輝いた

 めまぐるしくポイントが動いた一戦だった。4点タックルで先制したのは本橋。藤田が反撃して2点を取り、豪快ながぶり返し(4点)と、グラウンド状態からのがぶり返し(2点)を決めて8-4と逆転。反撃を試みる本橋のタックルを受け、再度4点となるがぶり返しを決めるなどし、14-6で第1ピリオドを終了。この時点で、主導権は完全に藤田にあった。

 本橋はあきらめなかった。藤田の3度目のがぶり返し狙いを逆に持ち上げて4点タックルを取り、もつれた末に12-16と差を縮めた。片足タックルを粘られながらも3点差に縮め、残り45秒に再度4点タックルを決めて19-18と逆転。藤田の逆転狙いのがぶり返しを耐え抜き、優勝を引き寄せた。

▲ラスト45秒、本橋(赤)は4点タックルを決めて逆転

藤田のスタミナ切れをはっきり感じ取り、反撃に力が入った

 8点をリードされたとき、多くの人が「このまま藤田が振り切るだろう」と思ったのではないか。だが本橋は、「(監督から)『試合中は得点を見るな』と言われています。見たら、気持ちも落ちてしまうと思います」と話し、点差は意識の外。試合が続いている限り、攻撃することだけを考えていた。

 気持ちが折れなかったのは、後半、藤田のスタミナが切れたようで、攻撃の力がゆるんできたことが手に取るように分かったことが大きい。「顔も、しんどうそうになっていました」と、表情にも出ていたと言う。確かに、第2ピリオドの前半に微妙な判定があって審判の協議で試合がストップしたとき、本橋は深呼吸しながらセコンドのアドバイスに耳を傾けていたのに対し、藤田はすぐに立ち上がらなかった。

▲第2ピリオド前半、審判団の協議のとき、藤田(青)には疲れの様子があったが、本橋は臨戦態勢だった=ネット中継より

 どこかを痛めたのかもしれないし、わずかな時間でもスタミナ回復をはかったのかもしれないので、このシーンだけで判断することはできまい。ただ、125kg級で闘っていて、時に97kg級に落としていた藤田が、92kg級で闘うためには減量がきつかったことが予想される。スタミナ切れがあっても不思議ではない。

 何よりも、闘っていた本橋が藤田のスタミナ切れを感じたのだから、反撃に力が入るのは当然。パワーでは間違いなく藤田の方が上で、4点を失った2度のがぶり返しは「力があった」とのことだが、パワーをしのぎ、スタミナでまされば勝利につながる方程式を実証した形となった

▲パワーはすごかった藤田(青)。豪快ながぶり返しで本橋を後方へ投げた

8点をリードされたが、「目は、まだ生きていた」…高谷惣亮・拓大監督

 高谷惣亮監督「高校時代は全国大会ベスト8が最高の選手なんです。拓大へ入ってきて、『2年後にチャンピオンにするぞ』と伝えて鍛えました。(3年生の今年)優勝してくれてよかった。指導者冥利に尽きます」とうれしそう。

 8点をリードされて第1ピリオドが終わったとき、「目が、まだ生きていました。大丈夫だと思いました」と言う。「ここからが勝負だ」と伝え、第2ピリオドの逆転劇を期待。藤田は階級を下げてきた選手で、体格は本橋より大きいが、「こちらも鍛えているので、パワーは負けていなかったと思う。(通常)100kg近くある相手を持ち上げて4点のタックルを取るんですから、やってきたことは間違っていなかった。自信をもって、これからも闘ってほしい」と要望した。

▲パワーなら本橋(赤)も負けていなかった。藤田を肩までかつぎ上げての4点タックルを決めた

 拓大は昨年、菊地優太(57kg級=今大会は2位)と三浦哲史(92kg級=現自衛隊)が優勝して、大学対抗得点で2位となったが、今大会は4位。両スタイルとも優勝を目指せた2010年代に比べると、やや落ちているのは事実。下積みから大学王者へ駆け上がった本橋を起爆剤とし、山梨学院大と日体大の争いが続いてる大学レスリング界の頂上争いに加わりたいところ

 それは高谷監督も自覚し、「来年、団体優勝することを公言しています」ときっぱり。同監督は東京オリンピックが終わった翌年の2022年に拓大監督に就任し、2023年から大学の職員になって指導を続けた。準備段階を終え、自分が最初にスカウトした選手が最上級生になる来年が勝負。「有力な1年生もいます。あと1年、しっかり仕上げて、2強時代を崩します」と宣言した。

▲初の主要タイトル奪取に、マット上を駆け回った。左は拓大・高谷惣亮監督