2025.11.04NEW

【特集】「はい上がりストーリー」の完結なるか? 昨年の再現で学生二冠を目指す山梨学院大

 2025年の男子フリースタイルの大学日本一を決める全日本大学選手権は、11月8日(土)~9日(日)に大阪・堺市金岡公園体育館で予定され、昨年、全階級で決勝進出を果たし、5階級で優勝した山梨学院大が2年連続優勝に挑む。

▲2年連続優勝へ向けて燃える山梨学院大

 学生王者の2人(五十嵐文彌、増田大将)が10月下旬のU23世界選手権に出場。そのあと、五十嵐と荻野海志主将が教育実習へ行くので、コンディションつくりや主将と副主将の不在でチームの一体感が心配されるが、10月下旬、同大学のレスリング場では、全日本大学グレコローマン選手権(10月18~19日)に出場した選手も含めて熱のこもった練習を展開。初日で優勝を決めた昨年の再現を目指すべく燃えていた。

【予想されるメンバー】
▼57kg級 勝目大翔(3年=静岡・飛龍高卒)=全日本学生選手権2位
▼61kg級 須田 宝(3年=佐賀・鳥栖工高卒)=アジア選手権優勝
▼65kg級 荻野海志(4年=埼玉・埼玉栄高卒)=全日本学生選手権2位
▼70kg級 冨山悠真(4年=茨城・霞ヶ浦高卒)=U23全日本選手権2位
▼74kg級 安藤慎悟(2年=大阪・興国高卒)=2024年U20世界選手権3位
▼86kg級 五十嵐文彌(4年=埼玉・埼玉栄高)=全日本学生選手権&国民スポーツ大会優勝
▼97kg級 増田大将(3年=埼玉・埼玉栄高)=全日本学生選手権92kg級優勝
▼125kg級 アビレイ・ソビィット4年=アスタナ高卒)=全日本学生選手権2位

流れを引き寄せてのリーグ戦の優勝、今大会は?

 試合方式は違うが、5月の東日本学生リーグ戦は決勝で日体大を5-2のスコアで撃破。その戦力からすれば、連覇の可能性は十分と言える。だが小幡邦彦監督は、全日本学生選手権が日体大の3階級優勝に及ばない2階級優勝だった事実を挙げ、「どう転ぶか分からない。リーグ戦は最初に勢いができて、運が向いたことが大きい」と気をゆるめない。

▲選手ごとにていねいな指導を続ける小幡邦彦監督

 リーグ戦での日体大との闘いは、第1試合に出場した70kg級の冨山悠真が豪快な“水車落とし”を決めるなどして快勝。流れを持ち込んでのチームの勝利だった。対抗戦方式特有の流れに乗っての優勝。今大会は、確かに決勝戦で団体の勝敗が決まる場合には、最初にマットに上がった選手の勝ち負けが後に影響するだろうが、根本は個々の実力が問われる大会。

 10月の全日本大学グレコローマン選手権では、4階級で優勝した育英大が、3階級優勝の日体大に総合得点でかなわず2位となった。直近のU23世界選手権・女子でも、優勝のなかったインドが4階級制覇の日本を上回って国別対抗得点で優勝する“驚異の優勝”を果たしており、0点(9位以下)を出さないことが必要な方式の団体戦だ。

 小幡監督は「どの階級も決勝に行ける力はある」と選手を信頼するとともに、組み合わせの関係では初戦が実質的な決勝と言える対戦もありうるので、「どの階級も最低3位へ。一戦、一戦を大事に闘わせたい」と言う。

2年連続で主将が優勝! 燃える荻野海志主将

 優勝がないよりは、あった方が有利に運べる。2年連続3度目の優勝を目指す65kg級の荻野海志主将は「一昨年、昨年とキャプテンが優勝しているんです(2023年=青柳善の輔、2024年=鈴木大樹)。今年も自分が優勝し、チームの優勝を引き寄せなければなりません」と気を引き締める。今年のリーグ戦ではチームとして快勝したが、自身は負けたので、「浮ついた気持ちはなく、ここまで来ました」と、チームをしっかりけん引してきた自負がある。

▲2年連続3度目の優勝を目指す荻野海志主将

 一方、“天敵”ができてしまったのは事実。2年連続学生王者に輝いた西内悠人(日体大)には、昨年のこの大会の準決勝で勝ったあと、今年に入ってU23全日本選手権、東日本学生リーグ戦、全日本学生選手権と3連敗。一昨年は、オリンピック代表になる前の清岡幸大郎(当時日体大)に1-2の惜敗で、日本代表が見える位置にいたが、いつの間にかその場所を西内に奪われてしまった形だ。

 それでも、「自分の動きを見直して練習してきた。自分のレスリングができれば、いい結果につながると思います」と前を向く。小幡監督も「(ロサンゼルス・オリンピックを目指して)勝負は2年後。西内とも何度も闘う。負けは気にせず、課題を見つけて修正していけばいい」と伝えており、3連敗というネガティブ要素を気にしない闘いを期待する。

「団体戦二冠を目指します」」…リーグ戦優勝の立役者・冨山悠真

 リーグ戦優勝の立役者ともなった70kg級の冨山悠真「リーグ戦は出来すぎだったんですよね」と話し、その後も地道な努力を続けてきた。昨年までは強豪先輩がいたため、この大会は4年生にして初出場となる。昨年の優勝には直接かかわっていないので、今年は「しっかり勝って団体戦二冠を目指します」と、リーグ戦に続いて優勝に貢献したい気持ちは十分。

 全日本学生選手権は、2位になった碓井晴登(日大)に敗れて上位入賞できなかったので、まずそのリベンジが目標。全日本大学グレコローマン選手権にも出場し、慣れないスタイルながら決勝まで進んで2位になるなど、意欲的に実戦をこなしてきた。「優勝はできなかったけど、(2位は)自信にはなりました。この流れで臨みます」と話す。

▲リーグ戦優勝の立役者の冨山悠真。グレコローマンに挑んだあと、この大会に臨む

 61kg級の須田宝は3年生にして3度目の全日本大学選手権出場。一昨年が2位で、昨年が優勝。今年はアジア選手権を制して世界選手権に出場し、世界のトップ選手の仲間入りを果たした。「追われる立場になったけど、自分のスタイルを貫いて勝ちたい」と意欲を見せる。

 「日本代表なんだから、学生の大会は楽勝でしょ?」の問いに、「(世界選手権は)1回戦負けですよ」と返し、他を大きく引き離していることは否定した。それでも、「国内では負けられない、という気持ちはあります」ときっぱり。この大会でのライバルを問われても「全員」とのことで、「自分のレスリングを出し切りたい」と謙虚な答が返ってきた。

▲国際舞台へ飛躍した須田宝。2年連続優勝を目指す

1年生王者に輝いた荻野と五十嵐の最後となる全日本大学選手権

 3、4年生を中心に挑むチームの中で、唯一、2年生での出場を見込まれているのが74kg級の安藤慎悟。山梨学院大が盤石の強さで来年以降も突っ走るためにも、光るところを見せなければなるまい。「最後の学生の大会となる先輩もいて緊張しますが、絶対に勝って(先輩を)送り出したい」と気合を入れる。

 日体大は世界王者の髙橋海大を86kg級に上げ、山下凌弥がこの階級に出てくる見込み。山下は6月の全日本選抜選手権で、3ヶ月後に世界王者に輝くことになる青柳善の輔(クリナップを破った選手。安藤が「練習ではボコボコにされている」という青柳を破った選手が相手では、簡単には勝たせてもらえまい。

 2024年U20世界選手権のチームメートで、山下が70kg級優勝に対し、自分は74kg級3位。「強い選手です。対策なんてありません。ガツガツいくだけです」と控えめだが、「ここ(山梨学院大)での練習をやっていれば、劣らないと思います」と、強豪そろいの練習環境で身につけた実力をもって挑む。

▲2年生での出場が予想される安藤慎悟。優勝の原動力となれるか

 山梨学院大は2019年大会で優勝したあと、世代交代がうまくいかず、2021年大会は3位2人が最高で団体4位に沈んだ。しかし、翌2022年は荻野と五十嵐が1年生王者に輝いて2位に浮上。2023年は日体大と2点差の2位に実力を詰め、昨年は圧勝での優勝。低迷からの「はい上がりストーリー」を演じてきた。

 その序幕で優勝した荻野と五十嵐にとって最後となる全日本大学選手権。鮮やかな締めくくりを演ずることができるか。

▲5年ぶりに小幡邦彦監督の体が宙を浮いた昨年の大会。再現なるか?=撮影・保高幸子