昨年の大学対抗得点を制した育英大。今年は2.5点差で王座を逃したが、優勝した日体大を上回る4階級で勝って意地を見せた。77kg級に上げた本名一晟と67kg級の長谷川虎次郎が8月の全日本学生選手権に続く優勝を成し遂げ、学生二冠王者に輝いた。
本名は、2023年東日本学生選手権・秋季新人戦で77kg級に出場しているが(優勝)、学生全体の大会としては初めての77kg級での試合。それでいて、準決勝までは無失点のテクニカルスペリオリティ勝ちかポイント勝ちの強さを見せた。
決勝は、U20世界選手権代表で伸び盛りの角出直生(東洋大)に投げ技を受けてしまって2点を先制されながら、第1ピリオドのうちに5-2と逆転。第2ピリオドの後半に相手の投げ技のミスに乗じてグラウンド攻撃を決め、11-2のテクニカルスペリオリティ勝ち。学生王者の友寄汰志(日体大)が初戦で不覚を喫して対戦の機会はなかったが、友寄を破った角出に勝ったことで“間接勝利”を挙げ、この階級でも学生ナンバーワンを証明した。
本名は「ふだんの体重が77kg近いので、ナチュラルな状態で試合ができた。これまでの試合では減量ばてが出たけど、今回はそれがなく、自分のレスリングで攻めることができました」と勝因を話した。
本格的な77kg級の試合は、今回が初めてではない。今月初めの国民スポーツ大会(滋賀)で77kg級に出場して2位になっている。このときは最初の2試合がポイント勝ちで、さすがに1階級上では簡単に勝たせてもらえないスタートのあと、決勝では全日本選抜選手権2位の櫻庭功大(自衛隊)に3点を先制する内容。第2ピリオドに反撃されて3-8で敗れたが、この階級でもやっていけることを感じさせてくれた粘りだった。
「国スポで77kg級に出たことで、この階級での自分の出力やスタミナをある程度つかめた。今回、落ち着いてできたのは、国スポの経験がいかされたからだと思います」と言う。
櫻庭は昨年の全日本チャンピオンであり、今年は敗れたが、今後もオリンピック王者の日下尚(マルハン北日本)と日本代表を争うであろう選手。俵返しは強烈だったそうで、「もっと筋力をつけてリベンジしたい」と言う。となると、12月の全日本選手権は77kg級での出場か? そこは明言を避けたが、このままでは終わりたくないという雰囲気。
8月の段階では、卒業後は故郷の新潟県に戻って後進の育成に回る予定だったが、好成績の連続で気持ちが変わり、レスリング活動を続ける可能性も出てきたそうだ。「半々くらいです。今の段階では、はっきり決めていません」と言う一方、「まだ体が動く。できるところまでやろうかな、という気持ちも出てきました」と話した。
続けるとしたら、企業かどこかの県のスポーツ協会などを考えているなど、かなり前向きな言葉が出てきたが、全日本選手権でどちらの階級に出るかを決めることも必要。77kg級にするのなら「もっと筋力をつけたい。どの選手もパワーがあるので、グラウンドの守りを強くすることが必要」と言う。2階級にわたって学生王者に輝いた選手の今後が注目される。
67kg級の長谷川は今季の学生二冠に加え、昨年の優勝に続く2連覇を達成。あらためてこの階級の学生ナンバーワンを証明した。
決勝の相手の屶網剣勝(拓大)とは全日本学生選手権の準決勝でも闘い、そのときは4-1で勝っていた。リベンジを目指す屶網の強烈な圧力の前に先にパッシブを取られて1点を失ったが、第2ピリオドにパッシブを取り返して同点。そこからのグラウンド攻撃でリフト技を決め、5-1で振り切った。
長谷川は、全日本学生選手権とともに「エントリー見て、優勝するのが当たりまえ、と思う部分がありました」と、昨年王者のプライドを口にし、勝つだけではなく内容にこだわる試合を心がけたと言う。しかし、うまくいかないことが多かったそうで、「反省点の多い大会でした。全日本選手権で勝つにはまだまだだと思うので、これからもしっかり練習します」と欲の深いところを見せた。
現在3年生なので、来年の2年連続学生二冠や、この大会の3連覇などの可能性が出てきたが、今年は12月の全日本選手権という大きな目標がある。6月の全日本選抜選手権では、パリ・オリンピック代表の曽我部京太郎(ALSOK)に1点も取れずにテクニカルスペリオリティで敗れ、3位決定戦は国民スポーツ大会で2位に入った矢部晴翔(自衛隊)に勝てず、社会人の強豪とは差がある状況だ。
だが、全日本選抜選手権で上位6選手に唯一入った学生選手が長谷川であり、社会人選手を倒す学生選手の一番手にいるのは間違いない。そこを乗り越えるために必要なことを聞くと、「まずは体つくり」とフィジカル面の強化を挙げた。現段階では減量も多くないので、もっと筋肉をつけてのパワーアップをしっかりやりたいと言う。
「全日本選手権でも優勝を目指して頑張ります」ときっぱり。