昨年のパリ・オリンピックで前人未踏の5連覇を達成したミハイン・ロペス氏(キューバ)が、ブラジル・サンパウロでフランスの通信社AFPの取材に応じ、キューバのスポーツ界が「非常に困難な時期を迎えている。才能ある選手を維持するためにスポンサーシップを活用する必要がある。変化が必要だ」と話した。
社会主義国のスポーツの限界を訴えたロペス氏を、AFPは「キューバ人アスリートとしては珍しく率直な発言」と評価した。
キューバは、1980年モスクワ・オリンピックで金メダル8個を取ったあと、1984年ロサンゼルス大会と1988年ソウル大会を棄権(前者はソ連・東欧諸国と歩調を合わせ、後者は北朝鮮と歩調を合わせた)。しかし、その間に実力をつけ、3大会ぶりの出場となった1992年バルセロナ大会では「金14・銀6・銅11」を取り、レスリングでも2階級を制した。
昨年のパリ大会では、優勝はロペス氏とボクシング選手の2人で、「銀1・銅6」のメダル9個と低迷。メダル・ランキングは32位となり、1992年以降で最低の成績。レスリングでは、ロペス氏の優勝で金メダル獲得の伝統が続いたが、今年の世界選手権での優勝はなく、3スタイルを通じてメダルは女子76kg級で銅メダルを取っただけに終わった。
ロペス氏は、経済不況や生活の悪化を理由に亡命する選手が相次いでいることや、国営トレーニングセンターの環境悪化を挙げ、「多くの才能を失っている。国際スポーツはビジネスだ。スポーツにはスポンサーがいる」と訴えた。
「キューバのスポーツをプロ化する必要があるか?」との問いに、「そう思う」と答え、新たなオリンピック・サイクルの開始に伴い、「早急に変革を実施することが重要だ」と付け加えた。
▲2021年東京オリンピック60kg級&2023年世界選手権67kg級を制したルイス・オルタ・サンチェスも、今年の世界選手権は9位に沈んだ。キューバの崩壊は予想以上に進んでいるのか?=UWWサイトより
同国は、今や世界で5ヶ国と言われる「社会主義国」で(他は中国、北朝鮮、ベトナム、ラオス)、スポーツ選手もいわゆる国家公務員。給与は国民の平均的な水準で、より高額な報酬を求めて亡命する選手が後を絶たない。
自身は、西側諸国への亡命は一度も考えたことがないそうで、「キューバ国民のためにメダルを獲得するという強い意志を常に持っていた」と言う。そのロペスがプロ化を提言するのだから、社会主義国のスポーツ体制は曲がり角に来ていると言えよう。
キューバ・スポーツ界の窮状に対して、2028年ロサンゼルス・オリンピックへの出場を目指して引退を撤回するとのうわさがあるそうだが、これはきっぱり否定。「スポーツは素晴らしいが、引退すべき時期を知ることが必要だ」と話した。