2025.10.17NEW

【特集】2年連続で学生&国スポを制覇! “幻の世界グランドスラム”への道に挑む西内悠人(日体大=男子フリースタイル65kg級)

 打倒オリンピック王者を目指し、2年連続で学生王者と国民スポーツ大会王者に輝いた男子フリースタイル65kg級の西内悠人(日体大)が、10月10日に開催された「チーム・ニュートリライト(TM)」のメディア説明会で、直前に迫ったU23世界選手権(10月20~27日、セルビア・ノビサド=同級は26・27日)に挑む意気込みを話した。“幻の世界グランドスラム”への道を目指してへ挑む。

▲全日本学生選手権に続き、国民スポーツ大会でも2連覇。圧倒的な強さをもってU23世界選手権へ向かう西内悠人

 昨年の大会で荻野海志(山梨学院大)が銀メダルを獲得。その荻野に、今年3月のU23全日本選手権、5月の東日本学生リーグ戦、8月の全日本学生選手権と3大会連続で勝っているので、優勝は十分に狙える位置にいる。

 西内は「シニアの世界一を目指してやっている。U23では負けられない、という気持ちです」と話し、優勝以外は眼中にない。先月末の国民スポーツ大会では社会人選手を含め3試合を無失点で圧勝して優勝(他に不戦勝1試合)。いっそう自信を強めたことが表情からうかがえる。

14歳で出場した世界カデット選手権で銅メダル

 「幻の世界グランドスラムを目指す」というのは、新型コロナウイルス蔓延のため世界カデット(現U17)選手権を制する機会を奪われ、そのタイトルはもう手に入れることができないため。2019年に14歳(中学3年生)で出場した大会で銅メダルを獲得(今年の65kg級世界王者のラフマン・アモウザドハリリ=イラン=に1-4で黒星)。同選手権には、あと2度出場できる機会があったので、出場していれば優勝する力はあった。だが、コロナのため2020年は大会自体が中止。2021年は実施されたが、日本は派遣を見送った。

▲2019年、14歳で世界カデット選手権銅メダルを手にした西内悠人(右から2人目)。優勝は、2歳上で現在の清岡幸大郎のライバル、ラフマン・アモウザドハリリ=チーム提供

 その後、2022年のU20世界選手権61kg級で日本の男子高校生として初めて優勝し、翌年も57kg級で優勝という実力。カデット時代に世界一になっていれば、U23、シニアと世界チャンピオンを重ね、オリンピックを加えれば、須﨑優衣(キッツ)アミート・エロル(米国)の女子選手2人しか達成していない世界の主要タイトル全制覇が可能だった。

 今年の世界選手権で、アレクサンダー・コマロフ(セルビア)が男子で初めて4世代での世界王者を達成。昨年のパリ・オリンピックを制したサエイド・エスマエイリ(イラン)がシニア世界王者になってU23を残すのみとなり、これから男子でも脚光を浴びるであろう偉業だけに、悔やまれるコロナ禍となってしまった。

▲2022年U20世界選手権で、日本の男子高校選手として初めて優勝した西内悠人=UWWサイトより

自分のレスリングは「世界で通用する」との実感あり

 西内は「コロナを恨みますよね」と、かなり真顔で話す。だが、「幻の世界グランドスラム達成者」と言われるのは、U23、シニア、オリンピックを制した後のこと。U23を取り損ねてしまっては、その“肩書”はありえない。

 世界レスリング連盟(UWW)から発表されたエントリーをチェックしたところ、先月のシニア世界選手権(クロアチア)で3位に入っているウミジョン・ジャルロフ(ウズベキスタン)、U20世界選手権61kg級を制したマーカス・ブレーズ(米国)、今年のU23アジア選手権優勝で世界選手権は8位のスジート(インド)が目につき、要注意選手としてマーク。闘い方を十分に研究して臨む予定だ。

 これまでの国際大会での成績や、フィジカル面での成長を考えると、自分のレスリングは「世界で通用する」という自信を持つ。腕取りとカウンター技が得意で、国内ではかなり研究されているとの実感があるが、国際大会に1年以上出ていないこともあり、海外ではまだ研究し尽くされていないと予想。「積極的にやってみたい」と言う。

 試合動画が簡単に入手できる時代で、闘うことがなくとも研究されている可能性はあるし、未知の強豪が出現してくるのも勝負の世界。厳しい闘いを覚悟しなければならないものの、世界の1、2位にいる清岡幸大郎(カクシングループ)と同じ場所で練習しているのは大きな強み。今年6月の全日本選抜選手権での清岡との対戦で、引けを取らない試合ができたことは自信になり、シニアの世界でもトップが近い位置にいることを感じると言う。

▲今年6月、清岡幸大郎へ挑んだ西内。まだ追い越すことはできなかったが、清岡に脅威を与えたことは確か=撮影・矢吹建夫

寮では2階級上の世界王者と同部屋、心構えを学ぶ

 「幸太郎さんとの試合ではミスが出てしまった。まだ、もろさがあるので、それを克服できれば、もっと上に行ける」と課題も見えている。

 日々の生活の中で、もう一人、刺激されているのが、先月の世界選手権で74kg級を制した日体大の1年先輩の髙橋海大。2階級上の選手だが、ときにスパーリングもして世界王者の強さを吸収。合宿所の部屋が同じなので、マットを離れたところでも見習うことが多い。世界選手権から帰国した次の日の朝練習でも、だれよりも先に集合場所に向かったそうで、気持ちの持ち方や栄養摂取の面など、世界一になる選手の行動に接している。日体大ならではの相乗効果は、世界への飛躍の大きなエネルギーになりそうだ。 

 昨年7月のU20アジア選手権(優勝)以来、国際大会の出場間隔が1年以上あいてしまったが、U20世界選手権2度優勝をはじめ、2人のオリンピック金メダリスト(清岡と樋口黎)と2階級上の世界王者(髙橋)がいる練習環境で鍛えられていれば、さほど問題はあるまい。「国民スポーツ大会での優勝は自信になりました。あのコンディションをつくって臨めば、絶対に優勝できると思います。いい緊張感をもって闘いたい」ときっぱり。

 数年後、「幻の世界グランドスラム達成者」と言われることができるか。真価が問われるU23世界挑戦だ。

▲国内予選で昨年の世界銀メダリストを破った西内。銀の上は金!=2025年3月