2025年国民スポーツ大会の成年男子フリースタイル74kg級は、2022年に70kg級で世界王者に輝き、その後、グレコローマンでの世界王者を目指している成國大志(滋賀・滋賀県スポーツ協会)が、このスタイルに“Uターン参加”。準々決勝で、先月の世界選手権70kg級を制した青柳善の輔(福島・クリナップ)を破るなどして優勝し、フリースタイルでも変わらぬ強さをアピールした。
「自分が一番びっくりしています」と成國。多くの人から「優勝できるよ」と声をかけられていたが、久しぶりのフリースタイルに加え、参加メンバーがすごく、その中で本気に「優勝できる」という気持ちにはなり切れなかったようだ。
青柳のほか、準決勝では74kg級で世界王者に輝いたばかりの髙橋海大(静岡・日体大)、反対ブロックには全日本選抜選手権2位の佐藤匡記(埼玉・自衛隊)らの名前。グレコローマンに活路を見出し、しかも通常より上の階級(注=70kg級は実施されないため)では、そう思うのも無理はないだろう。
初日の2試合を順調に勝ち上がり、最初に当たった強豪は青柳。リードを奪われて試合が進み、終了間際に場外際でがぶり返しを決めて逆転勝ちし、70kg級の“先輩世界王者”の意地を見せた。同じ東京のAACCでレスリングをやっていた青柳は、キッズ時代から知っていた選手。試合展開も予想できたという。その余裕からか、リードされても焦ることはなく、最後のチャンスをいかすことができた。
決め手となったがぶり返しは、フリースタイルの時代はさほど使うことのなかった技。「ああいう展開になったら、バックへ回っていたと思います」と言う。3年間のグレコローマンでの闘いで身につけ、勝負どころで爆発させることができた。「グレコローマンをやっていた成果が、一番出たところでしたね」と言う。
2022年に世界王者になったとき、青柳はU20世界選手権3位や全日本大学選手権優勝という成績を残していた。「練習で『勝てない』と思うこともあり、その頃から、もう抜かされているかな、という感覚はありました」と、その成長ぶりを感じていたと言う。再逆転できたのは、「グレコローマンの技術を身につけたこと」を振り返る。
続く一戦は、74kg級現役世界チャンピオンの髙橋の予定だったが、負傷のため棄権して不戦勝。事前に髙橋は負傷のため棄権するという情報が耳に入ったそうで、「頼むから、出ないでくれ、と思いました」と笑う。「闘ったら?」との問いに、「厳しかったと思います」と話すが、運を味方にするのも実力のうちと言えるだろう。
決勝の佐藤も全日本選抜選手権決勝で髙橋と1-3の接戦をした選手。79kg級でU23世界選手権3位にも入った選手であり、体重的にもきつい相手。「勝てるとは思っていなかったんですよ」との思いがあったそうだが、地元の声援に後押しされ、8-1で勝ち、フリースタイルでは3年ぶりの優勝を引き寄せた。
2週間前の世界選手権(グレコローマン72kg級)では、初戦敗退の屈辱。その悔しさの直後の優勝に気分はよさそう。グレコローマンで勝って両スタイルでの世界王者を目指す気持ちに変わりはなく、来年の世界選手権はグレコローマンで挑む予定だが、グレコローマンをやったことでフリースタイルでも強くなったことを実感し、フリースタイルでの闘いも再開する気持ちになったようだ。
昨年の全日本選手権では、田南部魁星(日体大=現ミキハウス)がフリースタイルで優勝、グレコローマンで2位という成績を残し、1973年の吉田光雄(専大=長州力)以来となる両スタイル同時優勝にあと一歩だった。半世紀以上、塗り替えられていない記録に成國大志が挑むか?