2025.09.25

井上謙二強化委員長に聞く…2025年世界選手権を終えて

 クロアチア・ザグレブで行われた2025年世界選手権が終わり、日本は男女で7階級を制覇した。現地で3スタイルの試合をつぶさに見ていた日本協会の井上謙二強化委員長に大会を総括してもらった。(大会最終日の9月21日、大会会場にて)

▲2025年世界選手権を総括する井上謙二強化委員長=9月21日、大会会場


練習の勢いを本番のマットで出した青柳善の輔、髙橋海大

──長い大会がようやく終わりました。全体を通しての感想は?

「全体として金メダルが7、銀メダルが3、銅メダルが3と、計13個のメダルを獲得することができました。3スタイルでしっかりメダルを獲得できたことは大きな成果です。強化委員長の立場として、ありがたいと思うのは、各所属の先生方、スタッフの方々に協力していただき、この全日本チームは成り立っていることです。その連携が計13個のメダルを取らせてくれたのかな。というところです。

 本当に所属の努力あっての全日本チームす。預かった選手を、いかにこの場でベストを尽くすことができるか。そこが全日本の役割であると思います」

──男子フリースタイルでは、70kg級の青柳善の輔選手(クリナップ)と74kg級の髙橋海大選手が金メダルを獲得しました。

「こちらに来て青柳選手と髙橋選手がウォームアップ上でスパーリング、ときには清岡幸大郎選手も交えてスパーリングをすると、海外の選手やスタッフが彼らの動きを注目していました。ランキング・チャンピオン(青柳)とオリンピック・チャンピオン(清岡)、74kg級の世界チャンピオン候補(髙橋)が練習するのは、他国が『すごい』と思う雰囲気を出していたんだと思います。

 青柳選手と髙橋選手に関していえば、そのときの勢いをそのまま本番のマットでも存分に出してくれました」

▲ランキング1位で世界選手権に臨んだ青柳善の輔。実力を発揮して世界一へ=提供・PINFALL(撮影:保高幸子)

ふだんの練習から世界を意識した練習に取り組んでもらいたい

──65kg級の清岡幸大郎選手(カクシングループ)と86kg級の石黒隼士選手(自衛隊)は銀メダルでした。

「清岡選手とグレコローマン77kg級の日下尚選手には、オリンピック・チャンピオンとして世界選手権にチャレンジする難しさを感じました。ともに敗れはしたけれど、いい課題というか、ここからチャレンジャーとして再出発してくれると思います。すでに帰国している清岡選手は、早くも日体大で練習しているという話を日体大の松本真吾監督から聞きしました。

 (今回のチームで)もう一人のオリンピック・チャンピオンの女子62kg級の元木咲良選手(育英大助手)は、ラスト0.3秒で逆転優勝したのは執念ですね。すごいなと思いました」

──フリースタイルの重量級では、97kg級の吉田アラシ選手(日大)が銅メダルを獲得しました。

「またひとつ、歴史を作ってくれましたね。この快挙を見ている日本の重量級の選手たちが『アラシだからできる』ではなく、『自分もできる』と思って、国内の試合はもちろん、ふだんの練習でも世界を意識した練習に取り組んでもらいたいなと思います」

▲日本重量級の歴史を塗り替えた吉田アラシ=提供・PINFALL(撮影:保高幸子)

──重いクラスで言うと、グレコローマン82kg級の吉田泰造選手(日体大)も銅メダルを獲得しました。

「吉田選手が活躍する姿を見て、同世代の選手たちには刺激になったんじゃないかと思います。まだ19歳ですからね」

北朝鮮の躍進は要注意

──女子では53kg級の村山春菜選手(自衛隊)、59kg級の尾西桜選手(日体大)、先ほども話に出た62kg級の元木選手、65kg級の森川美和選手(ALSOK)、68kg級の石井亜海選手(クリナップ)が金メダルを獲得しました。

「はい、5階級です。全10階級のうち、半分も取るのはすごいことです」

──その一方で、50kg級、57kg級、76kg級と3つのオリンピック階級は落としました。

「そうですね。まあ、北朝鮮の台頭もありましたが、ここは大きな課題として、今後の女子の強化にいかしていきたいと思います」

──今後、注意すべき国は?

「まずは北朝鮮ですね。来年は名古屋でアジア大会もありますし、北朝鮮もそこを狙ってくると思います。今回、女子53kg級で村山選手が勝ったことは収穫ですが、まだまだ油断できないところもある。ここは最大のライバル国としてマークしなければならないと思います」

▲このあどけない顔で世界を制したウォン・ミョンギョン(北朝鮮)。男女とも北朝鮮の躍進は脅威になりそう

──今大会にはUWWとしてロシア勢も出てきたことについては?

「サデュラエフ選手は入国できなかったわけですが、それ以外の選手はだいたい入国したと聞いています。日本代表の中では、清岡選手が決勝に上がるまでほとんど旧ロシアの選手と闘い、「ここはロシア選手権か?」と思えるくらい闘っていました。SNSを見ても、ロシアは日本を含むアジアをマークしているところもあります。

 ただ、2年半後には若い選手が出てくるでしょう。ロシアに限らず、アメリカからも若い選手が出てくると予想します。これから日本でも同じように若い選手が出てくると思います。いろんな大会の動画などをよく研究して対策をしていきたいと思います」