(文=布施鋼治)
これを快挙と呼ばず何と呼ぼうか。2025年全日本学生選手権(インカレ)の最終日(8月24日、東京・駒沢体育館)、男子フリースタイル86㎏級で岡澤ナツラ(慶大)が準優勝に輝いた。慶大の男子選手の決勝進出は、1971年の佐藤勝(フリースタイル68kg級優勝)以来、実に54年ぶりの快挙だった。
「高校のときから慶應という歴史の重みを感じていたけど、OBたちが作った偉大な歴史を塗り替えることができてうれしい」
昨年夏のインターハイでは80㎏級で優勝している。こちらも1960年第7回大会の八田忠朗(現米国在住)以来、64年ぶりの出来事。2年連続で母校のレスリング史に名を残した。岡澤は「支えてくださるOBの方々のご支援のおかげで、今の自分がいると思うので本当に感謝しています」と言いつつ、いまだ「実感が湧かない」と本音をこぼす。
ファイナルまで進出できた要因を聞くと、岡澤は息を整えながらハキハキと答えた。「自分のレスリング・スタイルは、カウンター(主体)。そのカウンターを仕掛けるためには、自分から攻めてきっかけを作らないといけない。U20アジア選手権(86㎏級で5位)が終わってから1ヶ月ちょっと、そこの部分に焦点を当てて練習を積み重ねてきたことですかね」
その一方で課題を見つけることも忘れない。決勝は昨年の学生二冠王者(全日本学生選手権、全日本大学選手権)の五十嵐文彌(山梨学院大)との対戦となり、先制点を奪うまではよかったが、その後、立て続けにポイントを奪われ、1-11のテクニカルスペリオリティで敗れた。岡澤は「完璧にやられてしまいました」と前置きしたうえで、敗因を分析した。
「自分からプレッシャーをかけ、チャンスができたところで攻める作戦を立てたところまではよかったけど、(途中から)ちゃんと闘えなかったですね。五十嵐選手は組み手がうまく、途中からはずっと自分のペースでした。逆に、同じことを自分ができたら、この階級で自分もトップにいけるのかな、とあらためて思いました」
昨年夏のパリ・オリンピックでは、大学の先輩である尾﨑野乃香が女子68㎏級で銅メダルを獲得した。慶應では高校生と大学生が一緒に練習する機会が多いので、岡澤はずっと尾﨑の背中を見続けてきたという。
「尾﨑さんは、けがを抱えていても男子選手とガツガツとスパーリングをしていました。自分が同じ立場だったら休んでしまいそうなときでも。自分を強化していく姿は、カッコよかったですし、刺激になっています」
憬れの存在? 「いや、できるなら超えたい」
岡澤は生粋の日本人。両親はふたつの願いを込め、息子に「ナツラ」と名付けた。「ナツラはポーランド語で自然を意味する。自由気ままに自然体で生きてほしいという意味と、もうひとつは、以前、ポーランドにパウエル・ナツラという有名な柔道家がいたんですよ(1996年アトランタ・オリンピックの金メダリスト=2005年から総合格闘家としてPRIDEのリングでもファイトした)。そのふたつに由来していると聞いています」
現在は法学部法律学科の一年生。周囲には弁護士を目指して司法試験予備校に通っている同期も多い。「みんなバリバリ勉強しているので、そっち方からも刺激を受けています」
次戦は9月末の国民スポーツ大会(茨城県代表としてエントリー済み)か11月の全日本大学選手権になる予定。「個人戦で86㎏級に出るのは、今回で2回目。79㎏でやっていたので、まだ力の質や重さの違いを感じます。この階級で自分はまだ細い方なので、今後はフィジカル面を強化していきたい」
パウエル・ナツラは、今もポーランドの国民的英雄として知られている。もうひとりのナツラも、日本重量級の秘密兵器として覚醒するか。