島根県出身で最も有名、かつ世界へ飛躍したスポーツ選手といえばテニスの錦織圭選手か? 地元の英雄にあこがれ、「島根県出身のスターになりたい!」と口にしていた小野こなみ(日体大=関連記事)が、2025年全日本学生選手権57kg級で1年生チャンピオンに輝き、その道を力強く歩み始めた。
小野は「けがをしてレスリングができない期間が続いたので、うれしい」という気持ちと、内容的にはまだまだだったので、「もっと練習して強くならないといけないと思いました」という気持ちとが半々の心理状況を表した。
右肩の痛みに悩まされ、「歩いているだけで肩が外れてしまうときもありました」とのことで、昨年6月に手術を受け、再起を目指した。「悔しい1年でした」と話すと、その辛さがよみがえったのか、わずかながら涙声に。
12月の全日本選手権にエントリーはしたが、できる状況ではなく棄権。試合に復帰したのは、今年4月のジュニアクイーンズカップU20で、1勝を挙げたものの、続く試合で高校の後輩にテクニカルスペリオリティ負け。つらい日々だった。
「島根県出身の小野」と言えば、世界チャンピオンに輝き、米国を主戦場にして世界のスターへ飛躍しつつある小野正之助(米国ペンシルベニア州立大)を思い出す人も多いだろう。小野の妹で、小学校時代(島根・加茂B&Gクラブ)の全国大会無敗は兄と同じ。東京・日体大桜華高へ進み、順調に育って2023年にインターハイ優勝、U17世界選手権2位と飛躍した。
肩の負傷によるブランクで停滞してしまったが、日体大で練習を重ねて以前の実力を取り戻し、東日本学生選手権、全日本社会人選手権(注=女子は大学生も出場できる)で優勝。今回で3大会連続の優勝となり、気持ちは立ち直った様子だ。
田南部力監督や伊調馨コーチによるハイレベルの指導を受けて「最高の環境」と言うだけに、「技術的に、もっと伸ばしていかなければならないと思いました」と、この優勝に満足することなく上を目指すことを誓った。
「ロールモデルというか、技術をよく見ていて目指している選手は兄」と、そのレベルに追いつくことが目標。特にすごいと感じるところは、スピードであり、技の展開が無意識に出てくること。自身は、試合中に次に何をやろうか困ってしまうことがあるが、兄は考えることもなく体が動いている。「パン、パンと技が出るようにしないとなりません」と言う。
昨年、兄がU20世界選手権(スペイン)で優勝したときは家族で現地へ行き、その闘いぶりを目の当たりにしている。「とても真似できるものではありません」と、“目標”というより“憧れ”と言うべき存在だが、小さな頃から一緒にやってきた身近な存在でもある。「しっかり研究して追いつきたい」と言う。
今春には、ペンシルベニア州立大で練習する兄について米国にも行っている。負傷からの回復の最中だったので本格的な練習はしなかったが、兄が出場したプロ・イベント(関連記事)も見て、「アメリカのレスリングは本当にすごいと思いました。刺激を受けました」とのこと。
何よりも、兄が異国の地でありながら楽しそうにレスリングをやっていたことが印象に残った。「本当にレスリングを楽しんでいるんです。こんなにレスリングが好きな人がいるんだ、と思うくらい(笑)」。それが強くなるために必要なことだと感じたことでもある。
兄は米国に活路を見いだしたが、自身は国内でしっかりと地固めすることを考えている。「日体大でやっていれば、本当に強くなると思うんです」と、今の環境こそが世界へ通じる実力をつけられる場所だと信じている。
豪華な指導陣もさることながら、57kg級に藤波朱理、59kg級に尾西桜と世界トップ選手が在籍。この中で鍛えられれば世界トップの実力が身につくはず。「朱理さんとは毎日練習させていただいています。本当に強くて…」と舌を巻き、スパーリングに入らないときは、常に藤波の動きを追って研究しているそうだ。
同じ57kg級なので、早ければ12月の全日本選手権で藤波に挑戦か? その問いには、「まだ闘えるレベルではないですから…」と明確な答はなく、体の成長を考えて階級を上げる可能性もあるので、まったく白紙とのことだが、尾西を含めた中量級トリオで世界に飛び出す日は近いか。
大きな目標を掲げるより、「たくさん試合に出て、レスリングを楽しみたい」が、今の目標。実際に楽しめているというから、兄の境地に近づいているのだろう。その中での次の具体的な目標は10月の全日本女子オープン選手権(静岡・焼津市)。「体も心も鍛え、もっと強くなりたい」と飛躍を誓った。