2025.07.26

【特集】世界銀メダリストの女性監督(花井瑛絵)が奮戦、独自カラーで強化…三重・朝明高校(上)

(文・撮影=布施鋼治)

 「重量級はウチの宝ですから」

 そう言いながら、三重県立朝明(あさけ)高校レスリング部の花井瑛絵(あきえ)監督は炊飯器からご飯を取り出し、サランラップに包んだ。慣れた手つきでオニギリをどんどん握っていく。オニギリの山ができるまで時間はかからなかった。一個の大きさはコンビニで販売しているそれの3倍はありそうだ。

 シンプルな塩オニギリを眺めながら、花井監督はため息をつく。「誰かお米を寄付してくれないですかね。まだまだ高いですから」

▲選手のためオニギリを作るのが日課の花井瑛絵監督。米価格の上昇は頭痛のタネだ

 2021年世界選手権(ノルウェー)の女子59㎏級で銀メダルという実績を持つ花井監督は、3年ほど同校でコーチを務めたあと、今春、前任の橋爪幸彦監督から受け継ぐ形で監督に就任。同時に東京から地元三重県にUターンしてきた弓矢暖人(日体大卒)も学校で実習助手を務め、コーチとして加入した。

 現在部員は14人在籍しているが、朝明高校ならではの特色がある。他校と比べると、目立って重量級が多い。部員の半分以上が重量級だ。同監督は「125㎏級は3年生に1人、2年生に2人。さらに80㎏級以上の部員が2年生に3人、1年生にも重量級が2人もいる」と説明する。

 2021年全日本学生選手権・男子フリースタイル57㎏級優勝の弓矢コーチも「自分がいなべ総合学園高校にいた頃は、いつも重量級がいなくて困っていた。朝明に、なぜこんなに重い選手ばかり集まるのか」と首をかしげる。

▲花井監督を助ける弓矢暖人コーチ

キッズ出身選手は皆無、初心者を育てる

 もうひとつ朝明の特色を挙げるとするならば、部員の中にキッズ出身者は皆無で、全員が高校に入学してから始めたということ。中学まで柔道をやっていた選手も多い。もしかしたら、それが重量級天国の原因のひとつなのかもしれない。

 今夏、朝明高レスリング部から唯一インターハイに出場する山中一平(3年)も中学時代は柔道に打ち込んだが、朝明高に入学したあとレスリングに転向した。「ラクビーをやっていた先輩から『高校に入ったらレスリングをやらないか?』と誘われたことがきっかけです」

 山中は現在、125㎏級で闘っている。朝明高には外部指導員として男子グレコローマン130㎏級でアジア選手権出場の実績もある河野隆太(三重県レスリング協会=青山学院大卒)も在籍しているので、練習相手には事欠かない。

 「レスリングは柔道とつながる部分が多くて楽しい。柔道ではあまり結果を残せなかったけど、レスリングに転向してからは県内の大会だけど結果が徐々に出ている」

 まだ全国レベルの大会では結果を残せていないので、今回のインターハイは大きなチャンスととらえている。

 「高校生としてラストイヤー。得意のリンクルを武器に表彰台を狙っていきたい」

 そう語る山中にとって、花井監督が握るオニギリは貴重な栄養源となっている。

 「試合が近づくと、緊張であまり食べられなくなるんですよ。体重も98㎏くらいまで落ちてしまうこともあるので、オニギリを食べて体重を維持しています(微笑)。監督が握ってくれるおにぎりはおいしい」

▲高校入学後にレスリングを始めた選手ばかりの部員。14人が全国での闘いを目指して奮戦する

全国高校生グレコローマン選手権には7選手が出場

 8月15~17日の全国高校生グレコローマン選手権(滋賀・大津市)にエントリーしている71㎏級の白石ミゲル強は、両親が日系ブラジル人で、ひとつ上の兄がレスリングをやっていたことをきっかけに、朝明高入学と同時に始めた。

 「1年生のときにはフリースタイルから始めたけど、途中からグレコローマンの方が楽しいと思って、今はずっとグレコローマンで頑張っています。グレコローマンの魅力? やっぱり投げ技ですね。このスタイルだと、お互い投げたりするじゃないですか。そこが魅力だと思います。全グレでは入賞したい」

▲至学館高~至学館大仕込みの実力で選手を指導する花井監督

 ちなみに全国高校生グレコローマン選手権には、朝明高から7人の選手が出場するという。

 「去年から各都道府県で1階級3選手までの出場を認めることになった影響だと思います。国民スポーツ大会の県予選はもう終わっていて、山中と白石が出場します」(花井監督)

 重量級の選手が半数を占め、グレコローマンを得意とする選手が多い中、去年から女子部員はゼロ。その中で花井監督は独自のカラーを打ち出しつつある。

▲壁には橋爪幸彦・前監督の教え子、後藤洋央紀(桑名工高~国士舘大~新日本プロレス=IWGP前王者)の三重県凱旋大会のポスターが

▲学校の敷地内にあるレスリング場

《下に続く》