《上から続く / 文・撮影=布施鋼治》
「そんなすごい人が僕らを指導してくれるなんて! ホンマにいいんか?」
昨年、大体大に湯元健一氏が監督として就任することが決まり、高校も指導するという話を初めて耳にしたとき、同高の庵野琥士朗副主将(前述)は衝撃を受けた。
湯元監督は2008年北京オリンピックの男子フリースタイル60kg級銀メダリスト。指導者に転向後は日体大のコーチとして数多くの名選手の育成に携わってきた。その指導力は、関西を拠点に3歳からレスリングを続けている庵野の耳にも入っており、実際に大体大で指導を受けると驚きの連続だった。
「技術レベルが全然違うこともさることながら、教えてもらって初めて気付くことも多い。湯元先生のレスリングは奥が深すぎます」
取材日も、庵野は積極的に湯元に挑んでいたが、まだまだ分が悪い。アンクルホールドを決める場面もあったが、「いやいや、かけさせてもらっただけです」と打ち明けた。
「心・技・体のすべてにおいて強い。自分が何をやろうとしているのかも分かっている。おまけに、パワーでも体力でも負けている」
そんな庵野に対して、湯元監督は「51㎏級では(国内でも)トップの力を持っている」と高い評価を下す。「反応速度だったり、飛び込むスピードだったりが速い。すでにレベルの高い近畿大会を制している。インターハイでも優勝できる能力を持っていると思います」
55㎏級の古澤大和(前述)も積極的に湯元監督にスパーリングを挑んでいた。湯元監督の強さについて聞くと、「強すぎて、心が折れそうになる」と吐露した。
「それでも、楽しくて。まだ自分ができないことも教えてくれるので、強くなっている実感があります」
─具体的にどんなところに強さを感じる?
「湯元先生は、力を入れたり抜いたりするのが、めっちゃうまい。あとは入ってからの処理も上手でやりにくい」
湯元の胸を借りるたびに、古澤は「昨日より今日の自分の動きをよくしよう」と考えながら闘っていると語った。
「さらに次の大会のことにもつなげ、『○△に勝つぞ』と思いながら練習しています」
やられても、やられても、あきらめることなく向ってくる古澤のガッツに湯元も目を細める。
「古澤は小さい頃からのエリート選手だけど、どん欲にレスリングに取り組んでいる。やっていて、負けず嫌いなところを感じます」
この1週間で4回ほどスパーリングをしているそうだが、そのたびに古澤の成長の痕を感じるという。「僕と当たるたびに、彼は対応を変えてきている。僕が新しい技術を出すとかかるけど、次の練習では(ちゃんと研究して)対応してくるんですよ」
庵野や古澤とともに学校対抗戦では勝利を期待できる71kg級の小林賢弥(3月の全国高校選抜大会2位)は、7月28日からギリシャで開催されるU17世界選手権に出場するためインターハイ出場を見送った。
湯元は「正直、一枚抜けて厳しいかなと思ったけど」と前置きしながら、語気を強めた。「71㎏級では主将の辻田陽咲の活躍が期待できる。125㎏級の長谷川大和には秘密兵器として奮闘してもらいたい」
筆者が見る限り、選手それぞれがインターハイに向け高い意識を持ちながら練習していた。そのせいで、いい意味でピリピリとして空気が漂っていた。いみじくも庵野は言う。「以前は、どうしても(チームの士気に)波があったけど、湯元先生が来てからは、ずっと高いテンションで練習ができている。そこが一番変わったところかもしれない」
今年の大体大浪商は一味違う。
《完》